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未来への回帰

未来への回帰

記事を読むのに必要な時間:約7分
自動車工学と高級料理には、多くの共通点があります。特に、どちらもその起源を尊重しつつ、常に改革に取り組みつづけている点が挙げられるでしょう。一流レストランの代表格「Tantris(タントリス)」は、創業50周年を迎えるにあたり新たなスタートを切りました。新しくキッチン・ディレクターを務めるベンジャミン・シュミュラと、ゲスト・スター・シェフのダニエル・ハムにインタビューし、料理の未来を探求する歓びについて語ってもらいます。

2022/10/25

張り詰めた空気の漂う厨房にて。「Tantris Maison Culinaire(※リンク先は英語サイトです。)(タントリス・メゾン・キュリネール)」のチーム全員が高揚感に包まれています。一見すると、慌ただしく混乱しているようですが、実際は、一分一秒に至るまで計算されています。創業50周年を記念して、ベンジャミン・シュミュラが率いるレギュラー・シェフたちが、ダニエル・ハムなどの世界的スター・シェフをゲスト・シェフとして招き、野菜だけで作られた特別な7品のコース・メニューをガラ・ディナーでふるまいます。レストランの入り口では、ニューBMW i7が、刺激的なアペリティフとしてお客様をお出迎えしています(➜もっと読む:目に見えないものを見えるように)。

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厨房では、すべての動きが正確で、なにもかもが完璧に指揮されています。シュミュラは、同僚のヴィルジニー・プロタットとともに、砂糖漬けのトマトにグリーン・アニスを添えているところです。多彩な香りが立ち上り、あっという間にフランスとヨーロッパの食文化を伝える香りの絵画が描かれます。ナスやアーティチョーク、キクイモ、アスパラガスが寸分違わず一口大に切りそろえられ、調理され、湯通しされ、コンフィされ、包まれてから、丁寧に盛り付けられていきます。完成した一皿一皿は、細部にいたるまで綿密に創り込まれており、さながらオートクチュールのよう。一刻を争う状況であるにもかかわらず、時が止まったかのように見える瞬間があります。この厨房には語るべき昔話がいくつもありますが、今は新しい物語が紡がれている真っ最中です。

ビジョンから組織へ

このレストランは、1971年のオープン当初からすでに、建築と料理の観点で、時代を先取りしていました。以来、スイスの建築家でありデザイナーのユストゥス・ダヒンデンによって設計されたレストランは、建築家カール・シュワンツアーが設計したミュンヘンの有名なBMW本社社屋である4シリンダー・ビルのように、アイコニックな建築物となりました。タントリスは、2012年から指定建造物に登録されており、まさにドイツ料理の奇跡が生まれるにふさわしい場所と言えます。エッカルト・ヴィツィヒマン、ハインツ・ウィンクラー、ハンズ・ハースの3人がタントリスを有名にし、常に伝統に敬意を払いつつ、革新的な料理を創り出す組織を築いてきました。

タントリスの創業者フリッツ・アイヒバウアーの息子であり、現在のオーナーでもあるフェリクス・アイヒバウアーは、急進的な一歩を踏み出すことを決断しました。彼は、マティアス・ハーン、ベンジャミン・シュミュラ、ヴィルジニー・プロタットという3人の若者を指揮官に据え、明確なミッションを掲げたのです。「私たちの歴史は宝ですが、伝統に埋没してはいけません。進化し、未来に目を向け続けましょう」。ハーンが考案した新しいタントリスのコンセプトにより、レストランは2つの店舗に分けられました。ミシュラン一ツ星の「レストラン・タントリスDNA」では、プロタットが、店の定番メニューである伝統的なフランスのグランド・キュイジーヌをモダンに進化させて、アラカルトで提供しています。ミシュラン二ツ星の「レストラン・タントリス」では、シュミュラが、フランスのオート・キュイジーヌにおける最高峰の伝統を受け継ぐ至福の料理を提供しています。

カナダで生まれたシュミュラは、この壮大な道のりを果敢に歩んできました。彼がいだいていたのは伝統に対する強い尊敬の念、それと好奇心です。「ここで、白紙の状態からスタートしました。新しい土地、新しい成長の機会。それが私の心を惹きつけました」と、穏やかに語ります。33歳という、自己を改革するにはまだ非常に若い年齢ながら、ミシュラン二ツ星を獲得しています。その堅実さが、彼が一目置かれる存在である理由です。「感動するものに出会う歓びを、友人や家族、それから厨房を通じてもっと多くの人と、分かち合いたいと思います。私は好奇心旺盛で、そのためのリスクを恐れません」。シュミュラは、タントリスという最適な挑戦の場と、必要な協力を得ました。この店の理念は、お客様を極上の贅沢を味わう旅へいざなうことだと、アイヒバウアーは明かします。「私たちは、意図的に、考え方を狭めないように心がけました。新しい一歩を踏み出すにあたって、ベンジャミンと彼のチームが自ら発見の旅へと出かけ、いろいろと試行するのを邪魔してはいけません」。当初からシュミュラがはっきりと認識していたのは、この旅の土台となるのが人間関係であるということです。

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料理の旅は、旅そのものが目的:タントリスのオーナーであるフェリクス・アイヒバウアー(右)、ゲスト・シェフのダニエル・ハム、エグゼクティブ・シェフのベンジャミン・シュミュラ(中央)

重要なのは食材がもたらす歓び

コンロでの作業は、スター・シェフが担う仕事の一部でしかありません。車輪が大きくなるほど、多くの歯車が必要になります。シュミュラは、彼が求める高品質な食材を供給してくれる業者との関係づくりにとりわけ熱心に取り組んでいます。「プライベートでも彼ら全員を知っていて、その家族とも知り合いであり、自宅を訪ね、一緒に食事をすることもあります。自分と同じように、良い意味でクレイジーな人を求めています。最初に直面した一番の課題は、そういった人たちと出会うことでした。最高品質の食材を、ごく少量しか栽培していない生産者もいます。ある季節にしか、最適な品質のものが手に入らない場合もあります。ですから、食材を中心にメニューを考えるのも私たちの仕事です」。

ゲスト・シェフのダニエル・ハムも、同様に、食材のトレジャー・ハンターとしての役割を担っていると感じています。スイス人シェフのハムは、ニューヨークの中心部にある世界最高峰のミシュラン三ツ星レストラン、「Eleven Madison Park(※リンク先は英語サイトです。)(イレブン・マディソン・パーク)」を経営しています。「品質へのこだわり、可能な限りベストな食材の追求は、私の根底にある料理哲学です。キャリアをスタートした当初から、このことを信じてきました」。しかし、ハムは、かつてのような品質の魚や肉が、手に入りにくくなってきていることに気がついていました。そこで、大胆な一歩を踏み出します。

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タントリスのキッチン哲学は、伝統と先見性の融合です。受け継がれてきた歴史を尊重しながら、同時に料理の未来も見据えています。

頂点からの再出発

2017年、ハムのイレブン・マディソン・パークは「世界のベストレストラン50」で1位に輝き、それ以来、最高の食事ができる、最も権威のある人気レストランとして常にランクインしています。ダーク・グリーンのスーツにTシャツ、白いスニーカーのハム。その控え目でありながら、ポイントを押さえたエレガンスは、彼の話や料理からも感じられます。ハムが重んじているのは、常に自問自答することです。「自分が目指す場所を知るには、まず自分の起源や歩んできた道のりを知るべきです。この旅での経験が私の料理に影響を与え、私を先へと導いてくれるでしょう。自己を革新しつづけることは、自分だけでなく、お客様に対する責任でもあります」。

スイス生まれで几帳面なハムは、レストランの料理を将来的にどうしていきたいのか、明確なビジョンがありました。それはヴィーガン料理です。そこで、キャリアの絶頂期に、すべてをゼロにリセットするという、勇気ある革新的な決断をしました。シェフとして、料理のラグジュアリーを再定義するという贅沢な挑戦に身をゆだねたのです。彼は、最高級のヴィーガン食材から、魔法のような、未だかつてないものを創り出すことに挑んでいます。「メニューはこれまで以上に緻密で、手間のかかるものになっています」。

過去と未来のアイコン

レストラン前に敷かれたレッド・カーペットに向かう途中で、ハムはBMW i7(➜もっと読む:新時代を見据える、人とクルマの出逢い)の後部座席に乗り込みました。シートやドア・パネル、内装に手を伸ばし、大型シアター・スクリーンに心を奪われています。彼は、美しいものに目がなく、特にインスピレーションの源となるアートや建築を愛しています。前日、マイザッハのサーキットでBMWのドライビング・トレーニングを体験したことを思い出しながら(➜もっと読む:12のヒント:コーナーにおけるレコード・ラインの探し方)、目を輝かせました。彼にとってはクルマを運転するのも、料理を創るのも同じで、「それは、感動であり特別な瞬間なのです」と語ります。感動、革新、美学が特別な形で融合したとき、クルマで言えばアイコニックな名車が、そして料理の世界で言えば代表的な一皿が生まれます。これも、カー・デザイナーとスター・シェフに共通している点です。

BMWのデザイナーが手がけたBMW 507、BMW M1、BMW i8といったモデルが象徴的な存在になり、BMW i7がラグジュアリーの常識を覆したように(➜もっと読む:新たな輝きをまとって走る)、料理もまた、まったく新しいキッチン言語を開拓するために進化を遂げています。そして、シェフとレストランが密接に結びつくことで伝説が生まれます。タントリスで言うならば、ハインツ・ウィンクラーによる紫キャベツを添えたマトウダイのシャンパン・ソース、エッカルト・ヴィツィヒマンによるラム・サドルのクレピネット、ハンズ・ハースによるホワイト・アスパラガスのマリネを添えたラングスティーヌのソテーと柚子のテリーヌがその代表格です。

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2017年、ダニエル・ハムのイレブン・マディソン・パークは「世界のベストレストラン50」で1位に輝き、それ以来、最高の食事ができる、最も権威のある人気レストランとして常にランクインしています。

しかし、将来の名品となるような料理を創造するには、どうすればよいのでしょうか?また、意図的に創り出せるものなのでしょうか?その質問に、ハムはほほ笑みました。シェフとしての経験はもちろん、一皿一皿を細部までクリエイティブかつ正確に、食材にこだわって創ることが大切だと語ります。「私にとって、アイコニックな逸品を生むための重要な柱が4本あります。素晴らしい味であること。ミニマルな美しさ、つまり複雑さを備えながらもシンプルにまとまっていること。クリエイティブで、驚きの要素が含まれていること。そして、目的と存在意義があることです。料理を創るときは、常にこの4点を守らなくてはなりません」。

対等に意見を交わす

レストランの厨房と同様に、BMWにおいても、自動車工学の未来を見据え、未来のモビリティを開発する際には、既成概念に捉われない考え方を必要とします。だからこそ、BMWは、テクノロジーからサステイナブルな素材(➜もっと読む:環境保護に向けたBMWの取り組み)、コンシャスな愉しみ、そしてデジタル・アート(➜もっと読む:AIがクルマをアートに変える)に至るまで、幅広い分野で先進的な考えを持つ人々と対等にアイデアを交換したいと考えています。多様な経験と知識の共有からしか生まれない何かを、そうした仲間たちとともに実現することを目指しています(➜ポッドキャストを聴く:THIS IS FORWARDISM)。(※リンク先は英語サイトです。)

新たなリーダー像

ベンジャミン・シュミュラは、フランス・アルザス地方にあるエーベルラン家の有名な「Auberge de l’Ill(オーベルジュ・ド・リル)」でも、ロアンヌにあるトロワグロ兄弟の伝説的なレストランでも、働いたすべての厨房で自分の原点を大切にしてきました。現在もその姿勢を変えることなく、新たな挑戦をつづけ、タントリスでも厨房の雰囲気を次世代に進化させようとしています。「父は私に、常に周囲の手本となるような人物でいなさいと助言してくれました。行動で示すようにと。いつも、この考え方に従ってきました。物事が上手くいかないときは、問題を解決し、前向きな気持ちでチームを率いること。頼られる存在でいなければなりません」。

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ベンジャミン・シュミュラは、タントリス・レストラン(ミシュラン二ツ星)で、高級フランス料理の伝統を受け継ぐ素晴らしいディガステーション・メニューを創っています。お客様の歓びが、彼の最高の歓びです。

父親が指揮者だったこともあり、彼もまた、厨房というオーケストラをまとめる才能を持って生まれてきました。その一方で、料理の未来像を描くにあたって、古い時代の慣習をなくし、まったく新しい道を築きたいとも考えています。怒号が飛び交う厨房は、もはや過去のものです。シュミュラは、このためにリーダーシップについて特別な教えを受けてきました。「サッカーをして育ち、チームのキャプテンを務めました。誰かが間違ったとき、それを非難するのではなく、どうすればもっとうまくできるかを示すことが大事です。とても幸運なことに、私の両親がまさにこの方法で、自分の良いところ、改善すべきところ、批判をどう受け止めるべきかを教えてくれました。私は代表として人前に立つことがよくありますが、厨房はチームワークがすべてだということを決して忘れてはいけません。協力しなければ、ともに新たな領域を探究する旅に出ることはできません」。

こうした新しい考え方は、時代を創り前進しつづけることを提唱する、BMWの思想「Forwardism(フォワーディズム)」に通じています。未来とは問うことであり、現状の変化を追求することと常に密接にリンクしています。

歓びは、細部に宿る。

ダニエル・ハムの「料理は感動と結びついている」という言葉に、シュミュラも賛同します。「料理の醍醐味は、レシピではありません。人は何かを味わったとき、何らかの思いを巡らせます。例えば、祖母が作ったケーニヒスベルガー・クロプセを食べたときに、私は子牛の頭を使った料理のソースを思いつきました。レストランで大切なのは、料理だけではありません。体験すべてが大切なのです。だから、できるだけテーブルに出向き、料理に込めた思いを伝えるように心がけています。お客様に料理の背景を知ってもらえたり、受け止めてもらえることは、単純にとても嬉しいことです」。

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感情を揺さぶり、心に残る料理の旅には、建築、デザイン、料理の技巧が詰め込まれています。

今までで一番栄誉だったことは何かとシュミュラに尋ねると、「ミシュランの星」ではない、思いがけない答えが返ってきました。それがまた、彼の非常に強い熱意を感じさせました。「今でもよく覚えています。ある日、初めてこのレストランを訪れたお客様が、厨房まで私に会いに来てくれました。とても特別な食事ができた今夜のことを一生忘れないと、お礼を言ってくれたのです。このとき、チームと私は16時間以上も厨房で働きつづけていました。けれど、そんな感激する言葉を聞けるからこそ、私たちはこの仕事を愛しているのです。こうして歓びを分かち合うことで、未来に向けてさらに強く団結していくことができます」。

筆者: マークス・レープライン;アート:ルーカス・レムス、ヴェレーナ・アイヒンガー;写真:マーカス・バーク、タントリス

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