緻密で無駄のない一新されたフォルム、より大きくなったキドニー・グリルと豪華なインテリアが目を引くBMW X5のデザインには、さまざまな要素が追加されています。このような新型車は誰がどのようなプロセスでデザインするのでしょうか。
BMWの特徴:BMWでは、車のデザインを社内コンペティションで決定します。コンペティションは複数回にわたって実施され、最終的に選ばれたデザインが生産されます。
デザインが完成するまでには数年かかります。そのプロセスをご紹介します。
未来を予測:トレンドの見極め
デザイナーはまず、少し先の未来において、どのような車両を、どのような状況で運転するかを予測できなければなりません。将来、最先端となるデザインを予測し、その時にBMWのお客様のニーズがどのように変化しているかも見通す必要があります。
デザイナーはファッションや建造物、自然まで、世界に存在するさまざまな要素からインスピレーションを得ます。また、BMWの優秀なチームによる極秘プロジェクトやコンセプト・カーがアイデアの源泉になることもあります。
特徴を表現:手書きのスケッチ
コンペティションの最初の準備は手書きのスケッチです。BMWのデザイナーはアイデアを表現するため大量のスケッチを作成します。
「新型モデルはまず、1枚の紙と1本のえんぴつで描きます」と、BMW X5 エクステリア・デザイナーのアンデシュ・テガーセンは言います。「初めに車両の本質と特徴を考えます。最初の手書きのスケッチは不完全ではありますが、その後のデザインプロセスの基本コンセプトになります」。
ただし、BMWのデザイナーは自由にスケッチを描けるわけではなく、規定の特徴やホイールベース、トランクの容量、安全性の要件に従う必要があります。
革新技術を取り入れ、未来のユーザーにとって見た目にも魅力あるデザインで、機能性と実用性をアピールする必要があります。「BMWの車両は一目見ただけで、乗り心地を想像できなければなりません」と、エクステリア・デザイナーのアンデシュ・テガーセンは語ります。
デザイナーは主にパソコンを使って作業しますが、最も重要なツールといえば、やはり手と目です。
実物大:テープ・ドローイング
デザイナーはスケッチに加え、壁に実物大の図面を描きます。これは「テープ・ドローイング」と呼ばれ、車両の大きさの比率に従い、ベースとなる図面上に柔らかなテープを貼り付けます。新型車の技術と構造のすべての特徴が示されたこの図面は、デザインプロセスの地図となります。
「テープ・ドローイングの段階になると、車両のイメージはかなり明確になります」と、エクステリア・デザイナーのアンデシュ・テガーセンは言います。「スケッチではアイデアやコンセプトだったものが具体的な意味を持つようになるのです」。
テープ・ドローイングでは特徴だけでなく、美しい車両の形が実物大で描かれます。「テープ・ドローイングが完成したら、3Dモデルでデザインを目にする日が待ち遠しくなります」と、テガーセンは言います。
このテープ・ドローイングは次のプロセスのテンプレートになります。
手書きのアイデアが具体的な意味を持つようになります。
デザインの仮想化:デジタル・モデル
この段階から最先端のデジタル技術を駆使したデザインプロセスとなります。CAS(コンピュータ支援設計)デザイナーが2Dのスケッチからバーチャル3D車両を作成します。ここで様々な技術の中から使用するのがバーチャル・リアリティ(VR)です。
特に、VRヘッドセットは部署間の円滑な共同作業には欠かせません。デザイナーと開発者はモデルのある場所へ移動しなくても、VRヘッドセットを通してどこからでもモデルを確認できます。これにより、デザインプロセスは効率化され、同時にその背景なども伝えることができます。つまり、実際の環境に近い状態で新モデルを表示できるのです。
立体化:クレイモデル
これまでは、平面上でカーデザインを処理してきましたが、形状を確認するこのプロセスからは立体になります。コンペティションで選ばれたデザイナーは実物大の立体モデルの作成に進みます。モデルはクレイ(粘土)で作ります。
「表面やラインはもちろん、細部まで完璧に仕上げるためにはクレイモデルは不可欠です」と、アンデシュ・テガーセンは言います。「BMWのデザインは実物大の立体モデルになって初めて命が吹き込まれます。スケッチが完全な立体になって目の前に現れ、その周囲を歩く瞬間は胸が躍ります」。
クレイモデルが完成すると、車両の塗装の代わりになる特別なシートで覆います。それによってラインや表面、バランスを照明の明るさを変えて確認することができます。
約1か月かけてデザインの完成度を高めた後、コンペティションが行われます。生産開始の約2年前、BMW役員会がコンペティションで勝ち残った2つのデザインから勝者を決めます。
クレイについて
クレイは工業用粘土です。加熱して加工し、モデルを作成します。クレイモデルの構造は木材と金属の基礎フレームを発泡材で覆ったものから成ります。クレイはモデルの表面のみに使用します。CASのデータに基づいて機械で大まかに加工し、手作業で仕上げます。ブレード、へら、スポンジ、ブラシなどの道具を使用します。
車内の構成:インテリア・デザイン
インテリア・デザインもエクステリア・デザインと同時にスケッチから開始し、同様のプロセスを辿ります。そのプロセスではクレイも使用します。インテリア・デザインの場合、これはシート・ボックスと呼ばれ、シートや表面はもちろん、細部や素材までインテリア全体を実物大で作成します。
このプロセスでも、VRヘッドセットが活躍します。実際に車内にいるかのように仮想の車内を見回すことができます。
「快適さと最新の機能を同時にお客様に提供できる洗練された車内環境を目指しています」と、BMW X5のインテリア・デザイナーであるエバ・ギュンターは言います。「運転の歓びを感じられるだけでなく、仕事や娯楽にも対応可能な環境です」。
完璧を目指し:微調整
BMWのデザイン部門にはカーデザインのディテール、色、素材をそれぞれ担当する専門チームがあります。微調整のエキスパートが車両のエクステリアとインテリアの両方のあらゆる要素を100分の1ミリの単位まで、すべての完璧に仕上げます。この段階では、デザイナー、エンジニア、生産技術者の間の緊密な連携が特に重要になります。
これらはまだ初期段階に過ぎず、BMW X5が一般公開されるまでには、さらに数年かかります。
BMWデザイン・センターはミュンヘン(ドイツ)、上海(中国)、ニューベリー・パーク(米国カリフォルニア州)の3か所にあります。すべてのチームは国境を越えて緊密に連携しています。