まとめ
物理学では、トルクはレバー・アームを介して物体に作用する力と定義される。
内燃エンジンや電気モーターの場合、トルクはドライブ・シャフトに掛かる力を指す。
トルクはポンド・フィート(lb-ft)またはニュートン・メートル(Nm)で表される。
- トルクとエンジン速度(rpm)の相互作用がエンジン出力を決定する。
もしあなたがまだ電気自動車(➜ もっと読む:電気自動車とプラグイン・ハイブリッド・モデルの特徴)を運転したことがないなら、今やその時です。電気自動車は環境保護に役立つだけでなく、運転する楽しみ(➜ もっと読む:電気自動車に関する10の通説)もまったく引けを取りません。その理由の一つがトルクです。もう少し詳しく言うと、ドライバーがアクセルを踏み込めば、すぐさまトルクが掛かるのです。でも、エンジン出力、kWやhpといった数字はそれにどう関係するのでしょうか?
その問いに答えるには、少し話を戻して、BMWエキスパートであるミヒャエル・グリーゼはこう説明します。「重要なのは、ドライバーのあなたが車に何を求めるかです。ハイ・レベルなエンジン出力?それともトルクでしょうか?」最終的には、高いトップ・スピードとアクセルへの素早いレスポンスのどちらを求めるのか、ということになります。
まず理論を説明しましょう。物理学では、トルクとは、レバー・アームを用いて支点に作用する力と定義されます。トルク、てこの法則の計算式は、トルク=力(N)×レバー・アームの長さ(m)となります。トルクの単位には、ニュートン・メートル(Nm)またはポンド・フィート(lb-ft)が使用されます。ニュートン(またはポンド)は作用する力を表し、メートル(またはフィート)はレバー・アームの長さを表します。トルクにはもう一つの呼び名があり、もしかするとこちら方が意味がより明確になるかもしれません。それは「回転力」です。この名前が示すように、回転力またはトルクは、物体を回転させる力です。つまり、車のドライブ・シャフトが回転する際に作用する力を意味します。一方、力(N)は物体を直線的に加速させる力です。エンジンの出力は、力と、この力が作用する速度により生み出されるのです。エンジン出力とトルクは、どちらもエンジン速度により変化する指標です。
トルクが高いと、効率的で省エネルギーなドライビングが可能になります。エンジン出力が高いと、素早く加速し、高いトップ・スピードに達することが可能になります。
ここまでが理論で、次は実践の話をしましょう。内燃エンジンの設計で目標とするのは、低いエンジン(回転)速度でも高いトルクをドライバーに提供することです。また、トルクはできるだけ広いエンジン回転域をカバーすることが望まれます。ドライビング体験の観点からすると、トルクが高いほど、ドライバーがアクセル・ペダルを踏んでからエンジンが反応するまでの遅れが短くなります。ドライバーは、トルクの高さを発進時や追い越し時の駆動力の大きさとして認識します。
つまり、強いトルクが素早く掛かるということは、ドライバーにとっては、(追い越しの)確実さ、運転の楽しさ、効率的な推進力を意味するのです。とはいえ、内燃エンジンでは、次に示す電気自動車のエンジンとは違い、(設計により僅かなものではあっても)トルクが掛かり始めるまで瞬間的な遅れが生じることは避けられないのです。要するに、高いトルクが早く掛かるほど、ドライバーにとってはメリットとなるのです。
トルク、そしてドライバーにとってのトルクの重要性は、エンジン出力との違いを見るのが一番分かりやすいでしょう。ここで、BMWエキスパートの説明を受けるにあたり、簡単な理論的説明を引用すると、エンジン出力では、時間という要素が関係します。簡単に言えば、エンジン出力とは、一定の時間の間に変換されたエネルギーを意味します。物理公式は、出力=力×速度となります。単位はキロワット(kW)で、以前は馬力(hp)が使用されていました。1ワット(W)は1ニュートン・メートル/秒で、1馬力は33,000ポンドを1分間に1フィート持ち上げるために必要な力です。エンジンが高い出力を得るには、高いトルクか高いエンジン(回転)速度が必要となります。メーカーが公表し、車両登録書類にも記載される最高エンジン出力は、通常、高いエンジン速度で得られたものです。
標準加速性能の測定(➜ もっと読む:0-100km/h。息を呑む加速のすべてを。)がここでは良い説明となるでしょう。ギアをトップにし、エンジンは高回転域で作動、そこで最高定格出力が得られます。エンジン・トルクとエンジン出力、そしてその延長にある日常の車の扱い方を理解するには、内燃エンジンの場合、最高トルクは最高出力よりも低いエンジン速度で得られるということを知っておく必要があります。私たちが「低いエンジン回転域においてパワーが良い」というのは、「低いエンジン速度でも高いトルクがある」という意味なのです。これは、マニュアル車を運転する際、ギア・チェンジを制限するのに役立つ知識です。また、トレーラーの牽引や登り坂の運転にも役立ちます。
トルクとエンジン出力の違いを例に説明します。内燃エンジン車に乗っているとき、ディスプレイのダイヤルに注目すれば、エンジン速度(rpm)が上昇していくと、トルクが最大となるポイントに到達するのが分かります。同時に、エンジン出力もエンジン速度に従って上昇します。ドライバーは、エンジン速度に対してエンジン出力、つまりエンジンのパフォーマンスが下がってきたと感じると、ギアをシフト・アップします(もちろんオートマの場合はこれは自動で行われます)。するとエンジン速度が下がり、また同じことが繰り返されます。
一般的に考えられている(つまり周りの人たちがそう考えている)こととは異なり、日々のカー・ライフでは、エンジンのトルクの方が(最高)エンジン出力よりも重要な役割を果たします。これは、環境や人々のお財布、忍耐力といった資源を大切にするために、技術者たちがドライバーに低いエンジン速度で大きな駆動力を得て運転することを望んでいるからです。そこで電気自動車のエンジンについて考えてみましょう。電気自動車の大きなメリットとは何でしょうか?電気自動車ではスタートした瞬間からフル・トルクが得られます。遅れは全くありません。それが、電気自動車の加速(➜ もっと読む:各国のeモビリティ事情を知る、世界ツアーへようこそ。)が、ドライバーにとっても同乗者にとっても忘れられない体験となる理由です。それだけでなく、電気自動車の多くは無変速のオートマチック・トランスミッションのため、ショックやギア・チェンジもありません。
低回転域ではトルクが重要となり、高回転域ではエンジン出力が重要となります。
BMWエキスパートのグリーゼは、電気自動車の特長をこう説明しています。「電気モーターの高いトルクは、効率的で省エネルギーなドライビングを可能にします。」電気自動車の特徴は、高いエンジン出力により得られる最高速度だけではありません。電気自動車は、快適で効率的なドライビングを可能にする素晴らしい駆動力を提供します。もちろん、運転する楽しみもまったく引けを取りません。
「別の言い方をすると、電気自動車は低回転で最高トルクに到達します。そして、それは最高出力に達するまでずっとほぼ一定なのです。」と、技術者グリーゼは説明します。そこから、トルクは低下し、エンジン出力は一定になります。トルクが最大ポイントに到達するとすぐに、車両の加速は鈍くなります。BMWエキスパートのグリーゼはこうまとめています。「低回転域ではトルクが重要となり、高回転域ではエンジン出力が重要となります。」
では、高いエンジン出力と高いトルク、どちらがより重要なのでしょうか?それはドライバーのあなたが何を求めるのかということに尽きます。例えば、もしあなたが高いトップ・スピードを好むなら、高い定格出力を持つ車が良いでしょう。逆に、もしあなたが交差点での発進の速さなど、効率的で快適なドライビング・スタイルを求めるなら、電気自動車のように、トルクを優先すべきです。
車のトルクって何?
トルクとは、エンジン設計における駆動力を示す物理量です。トルクの物理単位はニュートン・メートル(Nm)です。内燃エンジンを搭載した車の場合、低いエンジン速度でできるだけ早く高いトルクを得ることが目標はとなります。電気自動車の強みは、トルクをすぐに得られる点にあります。
著者:ニルス・アーノルド; イラスト:ミヒャエル・ブロス;写真/動画:BMW