ゴーカートのコースで、競争相手があなたをいとも簡単に追い抜いていくように感じたことはないでしょうか。その場合、マシンの性能が理由となることはほとんどありません。可能性として高いのは、相手の方がレコード・ラインを取る能力に長けているということです。プロのレースでさえも、このレコード・ラインが勝敗の鍵となります。ゆえにドライバーとチームは、できるだけ速く周回できるよう、サーキットごとに最適なライン取りを徹底的に分析するのです。
クラウディア・ヒュルトゲンは、ドイツにおける最高のレーシング・ドライバーの一人です。彼女は、世界で最も過酷なサーキットとして知られるニュルブルクリンク北コース(ノルドシュライフェ)で開催されたドイツ・ツーリング・カー・チャレンジやドイツ・プロダクションカー選手権、ドイツ耐久選手権において、BMWを駆って勝利を挙げました。また、ドバイ24時間やデイトナ24時間などの耐久レースでも優勝しています(➜ ル・マン:スリルに満ちた 24時間※リンク先は英語です。)。2012年以降、ヒュルトゲンはBMW Driving Experienceのチーフ・インストラクターとして活躍しています。
ヒュルトゲンによれば、レコード・ラインの探求は決して終わることのない作業です。「レコード・ラインは、変化する状況に合わせて常に調整し直さなければなりません」と、この経験豊かなレーシング・ドライバーは説明します。各々のドライビング・スタイル(アグレッシブかディフェンシブか)、路面の状況(滑りにくいか滑りやすいか)、当日の気候(ドライかウェットか)など、数多くの要因がレコード・ラインに影響します。
レコード・ラインを探す秘訣。それは、ただ練習あるのみです
プロから学ぶサーキット・ドライブのヒント
BMW M Race Track Experience(ドイツ)では、15以上のインターナショナル・サーキットを高速で、かつ安全に運転する方法を学ぶことができます。インストラクターは特に、各コースのレコード・ラインについて念入りに講義を行います。
※日本でも2020年10月31日(土)、栃木県のテストコースにてBMW M Performanceモデルのドライビング講習会が開催されました。
コースを余すところなく使いましょう。道幅はそのためにあるのです。
どのラインを走行するかは、あなたの視線によって決まります。人は無意識に、視線と同じ方向へクルマを走らせます。
レコード・ラインや適正なコーナリング・スピードを見極められるようになるまでは、ラインを探りながら根気よく周回を重ねましょう。ただし、スピードを上げるのは安全だと確信できる時だけにしましょう。
1 ブレーキング・ポイント:ターニング・ポイントへ到達するまでに、ここからブレーキを踏み減速します。
2 ターニング・ポイント:ここでブレーキを離し、ステアリングをイン側へと切り、エイペックス・ポイントを目指します。
3 エイペックス・ポイント(またはクリッピング・ポイント)切っているステアリングをここで戻しはじめます。
4 エグジット・ポイント:ステアリングを真っ直ぐに戻し、アクセルを踏み加速します。
自分のペースでコースを記憶しましょう。特に基準となるポイントおよびブレーキング・ポイントが重要です。それぞれのコーナーにおけるターニング・ポイント、エイペックス・ポイント、エグジット・ポイントを決めます。
原則として、コーナーにはアウト側から進入します。エイペックス・ポイントはイン側の基準となるポイントです。エイペックス・ポイントを過ぎたら、コーナーの出口に視線を向けます。そのままマシンの挙動に身を任せ、ステアリングを戻しながらコーナー出口で再び加速します。
どんな小さな修正であろうとも、ステアリングの切れ角を修正する場合はマシンの挙動を妨げることになり、タイムをロスしてしまいます。
アクセルをむやみに踏んではいけません。コーナー出口に向かって、加速するべき正しい瞬間まで待つのです。ほとんどの場合、ステアリングを戻すのと同時に加速をはじめて構いません。
レコード・ラインとは?
レコード・ラインとは、サーキットを最も速く駆けぬけるための理想的な走行ラインのことです。このラインはマシンやドライビング・スタイル、コースの高低差、当日の気候など、多くの要因に左右されます。そしてレコード・ラインは、必ずしもコースの最短距離を通るとは限りません。多くの場合、コーナーには複数のルートが存在します。
すべてのコーナーには、それぞれ異なるレコード・ラインがあります。まずはそのラインを探し出しましょう。次のステップはコーナーごとのラインをまとめ、ひとつの完成されたレコード・ラインを作り上げることです。こうしなければならないのは、各コーナーのレコード・ラインが、その前後のセクションに大きく左右されるからです。
最短距離が必ずしも最速のルートであるとは限りません。大回りであっても、次のセクションに向けてマシンのポジションがより良くなるようなラインであれば、ラップタイムを短縮するのに役立ちます。これが特に重要になるのは、異なる性格のコーナーが連続する複合コーナーの場合です。
ここで目指すのは、2つ目のコーナーから可能な限り速い速度で脱出することです。つまり、2つ目のコーナー出口で出来るだけ早くアクセルを踏めるようにするには、いったいどのようなラインで走行しなければならないかを考えるのです。つまり、複合コーナーのライン取りを考える場合は、逆向きから考えることになります。
1 レコード・ライン上をコーナーAに進みます。エイペックス・ポイントは通常と同じままです。
2コーナーAを出る際にアウト側へふくらまないようにし、真っ直ぐに走行するようにします。
3 このようにすれば、コーナーBに進入する際に良いポジションを得ることができます。
まとめ:コーナーAの完璧なレコード・ラインを犠牲にして、完璧な角度でコーナーBに入り、可能な限り速い速度で脱出します。
レコード・ラインと最適なコーナリング・スピードを判断するには、路面の凹凸や縁石の高さ、アスファルトの状態を考慮しましょう。
路面がウェットの場合には、より大きな弧を描いて走行しましょう。ほとんどのコーナーはイン側に向けて傾斜しています。つまり、コーナーの内側に雨水が集まることになります。さらに、タイヤの摩耗も大きくなります。この2つの要素が、コースをさらに滑りやすいものとするのです。
ここまでの知識を身に付けたら、必要なことはあと一つです。それは、ただひたすら練習をすること。何周も何周も走り続け、完璧なレコード・ラインを探しましょう!
時には、レコード・ラインから逸脱することに意味がある場合もあります。例えば、アタック・ラインを増やして時間稼ぎをしたい場合などです。
1 この場合、ブレーキング・ポイントは通常より遅らせた位置に設定します。
2ステアリング操作のタイミングも遅らせます。そして最も重要なことは、よりハードにコントロールを行うことです。
3 このようなラインを取る場合は、早い段階でステアリングを戻すポイントへとマシンを誘導し、より素早く加速をはじめることが重要です。
これらのヒントは、クローズド・サーキットでの走行でのみ実践し、さらに初心者は専門家の指導のもとでのみ行ってください。公道でのドライブでは行わないでください。
イラスト/アニメーション:シプリアン・ロスリンガー