ゲームは、彼の人生そのもの:イギリス出身で28歳のジミー・ブロードベントは、子供の頃から車のゲームで遊ぶことが大好きでした。そのSIMレーシング歴は、Sony PlayStationのGran Turismoに始まり、やがてPC版へと移行。最近ではrFactor 2、Assetto Corsa、iRacingに参戦し、2012年に立ち上げた彼のYouTubeチャンネルでは32万7千人以上の登録者を獲得しています。また、彼は「グランツーリスモ・チャンピオンシップ・ワールドツアー」のコメンテーターでもあります。
ここではジミーが、レベルを問わずすべてのゲーマーがレースを楽しむための秘訣を伝授します。
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バーチャル・モータースポーツは、どのゲームから始めるのがよいのでしょうか?どのレーシング・シミュレーターがベストか教えてください。
ジミー・ブロードベント:それはよく聞かれる質問ですが、どのレーシング・シミュレーターにもそれぞれの良さがあります。個人的には、オンライン・レーシングと対戦にフォーカスした「iRacing」を楽しんでいます。ドライビングの物理シミュレートとタイヤ・モデリングが優れている点では、「rFactor 2」と「Automobilista」が良いと思います。この2つのゲームは、他人と対戦したくないソロ・ドライバーにも十分なコンテンツが用意されています。また、モデルにこだわる方は、収録車種の多い「Assetto Corsa」を試してみてはいかがでしょうか。
機会があれば、様々なシミュレーターを試してみると良いと思います。どれかひとつを選ぶということなら、対戦メインであれば「iRacing」、ソロ・プレーヤーであれば「Automobilista」が最もオススメです。
SIMレーシングとは?
SIMレーシングとは、パソコンやゲーム機(PS4、Xbox Oneなど)で実際のカー・レーシングを精密にコンピュータ・シミュレーションしたものです。車両の挙動、トラクション、グリップ、タイヤの動きなどすべてが極めて正確に再現されています。SIMレーサーは、対戦相手あるいはAIとオンラインで競い合います。この時、プレイするゲームのソフトウェアに加え、ペダルとハンドルが必要です。
GTレースは、マシンをコントロールしやすいため、初心者に最適です
SIMレーシングの初心者は、どのレース・クラスとレース・ライセンスから始めるべきでしょうか?
ジミー・ブロードベント:「GT3」や「GT4」などのGTレースは、最も人気のあるSIMレーシング・カテゴリーのひとつです。いずれもすぐに熱中できるゲームで、ノーマル・レンジであればマシンのコントロールもさほど難しくはありません。操作が難しくなるのは、限界域に達した時だけです。また初心者の中には、たとえば「iRacing」でMazda MX5を駆ってみたいという人もいるかもしれません。このモデルは軽量であまりパワーがないので、セッティング次第でアンダーステアやオーバーステアになったりします。より速いクラスにチャレンジする前に、ハンドル操作の基本をマスターすると良いでしょう。最上位となるプロ・クラスでは、極めて素早い反応などトップ・ドライバーとしての高度な実力が求められます。
新たなレース・トラックやレーシング・ラインについて学ぶコツはありますか?
ジミー・ブロードベント:少なくとも私にとって最善の方法は、新しいトラックをまずはゆっくりと走行することです。そうしてコースの構造やコーナーの角度を把握します。それから、徐々に速度を上げてマシンを追い込みながら、トラックにどのように反応するかを確認します。初めて走るレーストラックでもいきなり100%で挑むドライバーがたまにいますが、そんなことをしたら、コーナーで横滑りするのも目に見えています。
また、レーシング・ラインの表示は、非常に役に立つと思います。私は最初の5、6回だけ使い、その後は消しますが。
マルチプレイヤー・セッションに参加して、最速ドライバーの後をついて行くこともオススメです。そうすることで彼らのギヤ・チェンジ、ブレーキング・ポイント、セットアップなどを観察することができます。なかには気後れしたり、プライドが邪魔をしてこういう場に参加できず、自分だけで練習をしようとする人もいるようですが、もっと単純に考えてみてもいいと私は思います。最速のドライバーたちは、最適な手段を熟知しています。そんな彼らのやり方を学ばない手はありません。(➜これも読む: How to find the racing line※リンク先は英語の記事です。)
コーナーにアプローチする際のアドバイスと、ブレーキングのテクニックについて教えてください。
ジミー・ブロードベント:それはとても重要なポイントです。なぜなら、コーストラックに慣れるための大きな鍵を握るのが、コーナリングだからです。まずは、正確なブレーキ・ポイントを把握します。コーナーの距離マーカーなど目立つものから位置を確認し、それらを記憶するのです。もうひとつのポイントは、エイペックスに付けること。コーナーのイン側を捉えることが重要です。そして、レース中はバック・ミラーを確認することも忘れてはいけません。コーナーで後ろにいるレーサーに、不意をつかれないためです。
常に心に留めておきたいのは、すべてのコーナーがそれぞれ違うということです。たとえば、もしコーナーの後に長い直線が続く場合には、進入時よりも脱出時に意識を集中させる必要があります。低速で入り、次第に速度を上げながら出口で一気に加速します。一方、S字カーブの場合はこれとまったく異なります。反対方向へより素早く切り替えるために、ある程度の速度をキープしたままコーナーに入るのを恐れてはいけません。(: 彼女が手にした、サーキットでの勝利)
高速コーナリングの優れたテクニックのひとつに、トレイル・ブレーキングがあります。
モータースポーツには、現実のレースでもゲームでも共通する高速コーナリングのテクニックがあります。それが「トレイル・ブレーキング」です。通常はコーナーの前で減速して、進入後に再び加速をしますが、トレイル・ブレーキングは違います。コーナーの奥までブレーキを踏み続けますが、直線でのブレーキングほどは強く踏み込みません。そうすることで、スムーズにコーナーに入ることができ、マシン重量の前方移動を利用して前輪のグリップを得ることができるため、ハンドル操作が容易になります。トレイル・ブレーキングが特に有効なのは、長い直線の後や傾斜したカーブです。これは「iRacing」のようなゲームで好まれるテクニックですが、「rFactor 2」などではそれほどでもないようです。
コーナーを最速で脱出するためのコツはありますか?
ジミー・ブロードベント:SIMレーシング中は、つい速くアクセルを踏みたい衝動に駆られてしまいます。しかし、それが上手くいくマシンはそう多くはありません。なぜなら最近のレーシング・ゲームは、あまりにもリアルに出来ているからです。たとえば、700 馬力のグループCマシンがフル・スロットル状態になると、ターボチャージャーが作動してすぐにマシンが横滑りしてしまいます。後輪のグリップが効かなくなるのです。
ですから、コーナーの後はアクセルを優しく徐々に踏み込んでいくのが得策です。どのくらい速く、どのくらい強くアクセルを踏むかはマシンによって異なります。たとえばF1のマシンでは後輪のグリップが大きくなりますし、前輪駆動車では感覚に頼る部分が多くなってきます。
最も重要なポイントは、マシンが何を伝えようしているかに耳を傾けることです
どうすれば自分のマシンの特性を理解することができますか?
ジミー・ブロードベント:とにかく、時間をかけて向き合うことです。私は「iRacing」ではLMP1というプロトタイプをドライビングするのが好きなのですが、ハイブリッド・システムからスロットルのレスポンス、ブレーキ・バランスまで、学ぶべきことがたくさんあります。マシンを知るには、何よりも多くの時間とドライビングの練習が必要なのです。
また、こうしたゲームで最も重要なのが、マシンが伝えようとしていることを「よく聞く」ことです。SIMレーシングでは実際のレースのようにGを体感することはできませんが、ステアリング・ホイールから感じるフォース・フィードバックによって、グリップ、ドリフト挙動、車両の限界についての情報を得ることができます。また、コーナリング時のタイヤが軋む音にも耳を傾け、タイヤに過剰な負荷をかけないよう注意すべきです。この点はロード・カーではそれほどではありませんが、レーシング・カーでは特に重要なポイントです。
SIMレーシングの良い点は、クラッシュしてもすべてをリセットできることです。つまり、マシンをギリギリの状態まで大胆に追い込むことができるということです(現実世界のレースでは決してお勧めしませんが!)。実際に、極限での走りはマシンがどのように反応するかを知る最善の学びの場となります。たとえば、F1とインディーカーの元チャンピオン、ナイジェル・マンセルは、新しいマシンでは常にスキッド・テストを行っていました。彼はドリフトやドーナツ・ターンをすることで、マシンに対する実際の感覚を養っていたのです。(➜これも読む: The most spectacular street circuits in motorsports※リンク先は英語の記事です。)
トラクション・コントロールやABSなどのドライバー・アシストは、速度に影響を与えますか?
ジミー・ブロードベント:ドライバー・アシスト自体は悪いものではありません。実際に「GT3」でも、トラクション・コントロールやABSなどのアシスト・システムを使っています。とは言え、それらにずっと頼るべきではないというのが私の意見です。フル・スロットル時には、常にトラクション・コントロールが作動してアシストしてくれますが、走行速度は遅くなります。また、フル・ブレーキング時には、ABSが介入して制動距離が長くなることもあります。ですから、ABSやトラクション・コントロールが作動しないようなドライビングを目指すべきだと思います。
レーシング・ゲームでの最適な視野と視線方向について教えてください。
ジミー・ブロードベント:レーシング・ゲームの問題点は、モニターの表示幅に限界があり、現実世界と同じような周囲の視界が得られないことです。そのため、他のマシンがどこにいるかを常に把握しておくことが極めて重要になります。そこで役立つのが「Field of View」機能で、レーシング・ゲーム中のドライバーの視野を調整することが可能です。
さらに重要なのは、適切な視線方向です。これにはeスポーツでも現実世界のモータースポーツでも、同じ法則が当てはまります。常に進みたい方向に視線を送るということです。コーナリングを例にとってみましょう。まずはブレーキ・ポイント、それからエイペックス、最後にコーナー出口にフォーカスします。これらのポイントを視野に入れれば、適切な方向に車は向かいます。また、画面にあらわれる多くの表示に惑わされず、次のストレートでしっかりその情報をチェックしましょう。
オーバーテイクは、チェスの戦略に少し似ています
オーバーテイク(追い抜き)は、どのようにすべきですか?
ジミー・ブロードベント:オーバーテイクとは、いわば社交ダンスのようなものです。ひとりひとりが紳士的な振る舞いを心がけなければなりません。しかし、他のメンバーにまったく配慮せず強引な追い越しをするオンライン・ドライバーもたくさんいます。彼らは他人を気遣うことなく、対戦相手を打ち負かすことだけを考えています。そして大抵の場合はすぐに、すべてを失ってしまうという報いを受ける結果になるのです。
オーバーテイクは静かな狡猾さを胸に秘めつつも、より知的かつスマートにアプローチすべきです。私が追い越しをしようとする場合は、1周前でコーナーのイン側に入ってフェイントをかけます。そうすれば、前車のドライバーは次のラップで私が何をしようとしているか分かった気になるでしょう。しかし、ここぞというタイミングで私はさっきと全く逆のことをします。同じコーナーでアウト側から追い抜きをかけるのです。このようにオーバーテイクには多くの戦術が必要で、その点でもゲームのチェスと似ているところがあります。
レーシング・シミュレーターでの競い方、勝つための秘訣はありますか?
ジミー・ブロードベント:レーシング・ゲームでは何よりも、集中力が不可欠です。特にトップを走っている時は、つい油断して気持ちも緩みがちですが、それが思わぬミスにつながります。ですから私は、常に一定のラップ・タイムで走行することを心がけ、集中力を切らさないようにしています。
集中力と併せて、忍耐力も勝利には重要な要素です。私はそうではありませんが、選考会には本当に速いドライバーがいます。私はレース全体を通じて一定のペースを保つことが得意ですが、他の多くの対戦相手にとってそれは難しいことのようです。おそらく彼らの運転は激しすぎて、タイヤをかなり酷使していると思います。
レースにおいての最大の間違いは、他のドライバーの動きに気を取られてしまうことです
レースにおける最大の間違いは、他のドライバーの動きに気を取られてしまうことです。そんな時にドライビングのミスも発生しやすくなるため、私は完全に他を切り離して、自分自身に意識を集中させるようにしています。
また、マルチプレーヤー参加のレースでは特に、燃料消費とタイヤの摩耗が鍵を握ることも忘れてはいけません。常に限界でレースをする大会とは異なり、運転と操作に余裕があるほど、タイヤは長く持ちます。あまりにも激しいドライビング・スタイルによってタイヤが摩耗してしまうと、突然車両がスライドし始め、時間のロスにもつながります。
同じことが燃料消費にも当てはまります。常に最大回転数で走り続けると、燃料がすぐになくなり、余計なピット・ストップに繋がってしまいます。何にしても、頭をフルに使うことが大切です!SIMレーシングには、レース・エンジニアはいません。頼れるのは、自分の頭脳だけなのです。
10人の世界レベルのSIMレーサーと、10人の現役BMWワークス・ドライバー、そしてジミー・ブロードベントのような多数のインフルエンサーが12月にBMWの本拠地であるドイツ・ミュンヘンに集結し、BMWヴェルトで行われたSIMレーシングのイベントに参加しました。
BMW SIM LIVE 2019では多くのモータースポーツ・ファンが「rFactor2」をプラットフォームとし熱い戦いを繰り広げました。ジャーナリストとインフルエンサーが対戦するメディア部門のレースでは、ジミーが見事に優勝を獲得。プロのレースでは、VRS Coanda Simsportのミッチェル・ディヤング(アメリカ)がトップの座に輝きました。
BMWブランド・エクスペリエンス・ショー・アンド・イベントの責任者であるステファン・ポニクヴァにとっても、初めてのBMW SIM LIVE 2019は非常にエキサイティングな大会となりました。「私たちのビジョンは明確です。モータースポーツの強いDNAを持つプレミアムな自動車メーカーとして、BMWはSIMレーシングの世界でもリードしていきたいと考えています」
記事:トーマス・ストゥクリック
画像:iRacing, BMW