BMWのキドニー・グリルは数十年に渡って変化を遂げ、常に時代に応じた機能性とデザイン性を追求してきました。しかし、長い歴史のどの時代にあっても、ブランドのアイデンティティを映し出す象徴としての役割を失うことは決してありませんでした。駆動技術や冷却システムの進化に伴い、車両のフロント部分に新たな設計の可能性が拓かれました。このことがキドニー・グリルのデザインにも大きな影響を与えています。第2世代のBMW 4シリーズ クーペに採用された縦長のキドニー・グリルとフロント・バンパーの印象的なデザインは、BMW 328など伝説的なモデルから受け継いだもので、BMWクーペの輝かしい歴史を体現しています。ここでは、ブランドの象徴であるキドニー・グリルに焦点を当て、BMWの歴史を簡潔に振り返ってみましょう。
BMW 303(1933)
BMW 303は、BMW史上2つの点において革新的な車であったと言えます。まずひとつ目が、BMW初の直列6気筒エンジンを搭載したミドル・クラスのセダンだったということ。そしてもうひとつは、90年近く経った今もなお、すべてのBMWのトレードマークとなるエレメントを備えた最初のモデルだったという点です。それが、キドニー・グリルの愛称で親しまれる独創的なフロント・グリルです。当時の自動車デザインでは、クローム・メッキ加工が施されたセンター・バーによって分割されたラジエーター・グリルはさほど目新しいものではありませんでした。しかし、上部と下部に丸みを帯び、上部アーチの間に青と白で4分割された円形のエンブレムを配したBMW 303のキドニー・グリルは人々にとても強いインパクトを与え、ブランド認知を高める上でも大きな効果をもたらしました。その後、第二次世界大戦までの間に伝説的なBMW 327 / BMW 328を含むすべてのBMWモデルに、この独創的なグリルが採用されます。デザインは次第に横長でエレガントな形状へと変化していきましたが、基本的にはBMW 303によって確立されたコンセプトを引き継ぐものでした。
BMW 507(1956)
BMW 503と同じ年に発表されたBMW 507 ロードスターは、デザインの鮮烈さという点ではこの姉妹モデルよりも明らかに革新的なモデルとして注目を集めました。それは、水平にレイアウトされた大型のエア・インテークを備える最初のBMWでした。製作者のアルブレヒト・フォン・ゲルツは、キドニー・グリルのデザインにおいて創造的な自由を表現しようとしたのです。このデザインが後世再びBMWのデザイナーたちによって取り上げられたのは、1990年代以降に立ち上げられたさまざまなデザイン・プロジェクトによってでした。
BMW 507にとって、大型のフロント・グリルはデザイン上の理由だけではなく、機能的にも必要なものでした。このフロント・グリルは、フラットなボンネットの下に配されたV8エンジンのラジエーターに新鮮な空気を送る、唯一の供給源であったからです。
このモデルのフロント・デザインには、他にも注目すべき点があります。BMW 507は、ダイナミックに傾斜したフロント・ノーズを備えたブランド初のモデルでした。これは「シャーク・ノーズ」と呼ばれ、ボンネットの長さを視覚的に強調して前方に突き進もうとするスタンスを印象づける効果を持ちます。このデザインは1960年代に登場する「ノイエ・クラッセ」と呼ばれたモデル群で確立され、1990年代にかけてBMW 3シリーズ/5シリーズ/7シリーズの幅広いモデルで採用されました。
BMW 1500(1961)
車幅全体に拡がる2つの水平グリル。 その間に配された、縦長のキドニー・グリル。
「ノイエ・クラッセ」と名付けられたミドルクラスのこのモデルは、技術的・商業的な面だけでなく、BMWのデザインにおいても新たな時代の到来を告げる存在でした。BMW 1500(およびその姉妹モデルであるBMW 1600、BMW 1800、BMW 2000)のキドニー・グリルでは、BMW 503に似た2つの縦長キドニーが初めて一体化され、より細い形状となり、フロントの車幅いっぱいに拡がる2つの水平「ノイエ・クラッセ」と呼ばれたミドル・クラスのモデルたちは、技術的・商業的な面だけでなく、BMWのデザインにおいても新たな時代の到来を告げる存在でした。BMW 1500、およびその姉妹モデルであるBMW 1600 / 1800 / 2000のキドニー・グリルでは、BMW 503に似た2つの縦長キドニーが初めて一体化されてより細い形状となり、フロントの車幅いっぱいに拡がる2つの水平グリルの間に配置されました。この組み合わせは、1966年から始まる02シリーズ、BMW 2500およびBMW 2800 セダン(1968~ )、そしてBMW 2800 CS クーペ(1968~)および伝説的なBMW 3.0 CS / CSi / CSLなど、1980年代までのBMWの中核を成すモデルのフロント・デザインの基礎となりました。グリルの間に配置されました。この組み合わせは、02シリーズ(1966~)、BMW 2500およびBMW 2800セダン(1968~)、そしてBMW 2800 CSクーペ(1968~)および伝説的なBMW 3.0 CS、BMW CSi、BMW CSLなど、1980年代までのBMWの中核を成すモデルのフロント・デザインの基礎となりました。
BMW M1(1978)
1978年に発表されたBMW初のミッドシップ・スポーツカーM1は、キドニー・グリルのデザインに関して非常に特殊なケースであると言えるでしょう。フロント・エンドが極めてスリムな形状となったためフラットなエア・インテークしか配置できなかったにも関わらず、ブランドの象徴であるキドニー・グリルは、その特徴を損なうことなく採用されているのです。結果、BMW史上最も小さいキドニー・グリルとなっています。このクーペ1978年に発表された、ブランド初のミッドシップ・スポーツカー、BMW M1は、キドニー・グリルのデザインに関して非常に特殊なケースであると言えるでしょう。フロント・ノーズが極めてスリムな形状となったためにフラットなエア・インテークしか配置できなかったにもかかわらず、ブランドの象徴であるキドニー・グリルはその特徴を損なうことなくデザインされました。結果としてそれは、BMW史上最も小さいキドニー・グリルとなっています。このモデルは1972年に発表されたコンセプト・モデル、BMW Turboにインスパイアされたもので、リトラクタブル・ヘッドライトを備えたボンネットの先にキドニー・グリルとエア・インテークが「組み込まれた」ような形で配置されているのが特徴です。BMW M1におけるキドニー・グリルのデザインは、BMW Z1(1988)やBMW 8シリーズ(E31、1989)など、後のニッチなモデルのフロント・デザインにも影響を与えています。は1972年に発表されたBMWターボのコンセプト・カーにインスパイアされたもので、リトラクタブル・ヘッドライトを備えたボンネットの先にキドニー・グリルとエア・インテークが「組み込まれた」ような形で配置されているのが特徴です。BMW M1のキドニー・グリルのデザインは、BMW Z1(1988)やBMW 8シリーズ(1989)など、後のニッチなモデルのフロントエンド・デザインにも採用されています。
BMW 3シリーズ(1990)
1990年には、第3世代のBMW 3シリーズ(E36)が劇的な進化を遂げました。キドニー・グリルはフラットな形状で水平にレイアウトされ、幅はさほど広くありません。先代モデルまでは一体化されていたキドニー・グリルが再び2つに分割され、やや横長で角が丸い形状となっています。さらに特筆すべきは、ヘッドライトとキドニー・グリルが、ボディと同色のサーフェスによって切り離されているという点です。このデザインは1990年代の多くのモデル、すなわちBMW 7シリーズ(E38、1994)、BMW 5シリーズ(E39、1995)、BMW Z3(1995)、第4世代の3シリーズ(E46、1998)、初代および第2世代のBMW X5(E53、1999 / E70、2006)などで採用されました。
BMW i3(2013)
電気自動車であるBMW i3において、キドニー・グリルは空気を取り入れるという本来の機能を持つ必要がないため、フロント・デザインの美しさとBMWとしてのアイデンティを際立たせる要素として採用されています。フラットでややワイドなキドニー・グリルは、クローズド・タイプのデザインとブルーのアクセントによって、BMWが生んだ革新的な電気自動車であることを主張します。同時にこの形状は、エアロダイナミクスの向上にも貢献しています。BMW i8のキドニー・グリルにも採用されているこのコンセプトは、将来的にBMWが生み出してゆく電気駆動モデルのデザインにもインスピレーションを与えることになるでしょう。
BMW 8シリーズ、BMW Z4(2018)
2018年、センセーショナルにデビューした2つのモデルにおいて、キドニー・グリルの新たなデザインに注目が集まりました。水平に配されたグリルは非常にワイドな五角形のフォルムとなり、BMW 8シリーズ(G14/G15/G16)では2つのグリルが連結している一方、BMW Z4(G29)ではボディ・カラーによって分断された形となっています。そしていずれも、その両サイドがヘッドライトへと繋がるようデザインされています。他の新しいBMWクーペと同様にキドニー・グリルが「下方に広がった」ことで、視覚的にフロントの重心が低くワイドになり、スポーティさをよりいっそう強調しているのです。機能的には、空気抵抗を最適化するために必要に応じてフラップが開閉するアクティブ・エア・ストリームが備わっています。BMW 8シリーズをはじめ、一体化されたキドニー・グリルを採用したモデルでは、ドライビング・アシスト・システム用のカメラが、2つのキドニーを接続する中央部分に搭載されています。
BMW 3シリーズ セダン(2018)
現行モデルである第7世代のBMW 3シリーズ セダン(G20)。そのキドニー・グリルは、一体化されたグリル、ヘッドライトと繋がるレイアウト、五角形のフレームといった現代的なデザイン言語に、さらなる解釈が加えられています。たとえば、キドニー・グリルの上辺はボンネットのキャラクター・ラインに届くほど高い位置に設定され、多角形フォルムの両端は左右のヘッドライト上辺へと繋がり、水平方向の広がりを視覚的にアピールしています。また、BMW M 340i xDriveでは、従来のバーの代わりに「ナゲット」と呼ばれる装飾を配したメッシュ・デザインが採用されています。
第7世代のBMW 3シリーズを2019年に発表された2つのモデル、BMW X7(G07)とモデル・チェンジされた第6世代のBMW 7シリーズ(G11/G12)と比較すると、キドニー・グリルのデザインがモデル間でどれだけ異なっているかがわかります。BMW X7とBMW 7シリーズを見てみると、上端に向かってカーブするデザインはBMW 3シリーズと同様ですが、これら2つのモデルではサイズがはるかに大きく、フロント・マスクにおいても圧倒的な存在感を放っています。
BMW 4シリーズ クーペ(2020)
未来への架け橋。
量産モデルにおけるキドニー・グリルの最新デザインは、ミュンヘンにあるBMW Groupのデザイン・スタジオ、歴史的なモデルが居並ぶBMW Group Classicのホール、およびアシュハイムにあるテスト・コースを舞台に、デジタル・ストリーミングによる、第2世代のBMW 4シリーズ クーペ(G22)のワールド・プレミアにて発表されました。アンべールの瞬間、フロント・マスクの中央に切り立ったその大きなキドニー・グリルに誰もが驚いたのは言うまでもありません。しかしBMWの歴史を振り返れば、このモデルが伝説的なスポーツカーの特性を強く受け継いでいることに気づくはずです。1930年代のBMW 328や1970年代のBMW 3.0 CSといった傑出したモデルが、卓越したパフォーマンスによって手にしてきた名声、そしてサーキットでの栄光。その輝きはさらなる時を越えて、未来のBMWクーペにも脈々と受け継がれてゆくのです。
BMW 4シリーズ クーペのデザイナー、ソンモ・リム は、縦長のキドニー・グリルのデザインが未来への架け橋になると語っています。「BMWのデザインには、確固たる歴史があります。ひと目でそれとわかる特徴があり、キドニー・グリルもこうしたデザイン・アイコンのひとつです。しかし、BMWのデザインは常に未来に向かって再解釈され、刷新を続けなければなりません。そこで、私たちはこの新しいBMW 4シリーズ クーペのデザインに敢えて過去の栄光を取り込むことで、未来へ向かう大胆な一歩としたのです」。さらに、BMW AGのマネジメント・メンバーで、顧客やブランド、販売を担当するピーター・ノタは、次のように付け加えています。「新しいBMW 4シリーズ クーペは、BMWブランドの本質を体現しています。これはBMWが持つ不朽のDNAを前向きに解釈した、現在における到達点なのです。」
BMW Vision iNEXT(2018)、BMW Vision M NEXT(2019)
BMWはこの2つのヴィジョン・モデルで、ブランドのアイデンティティを今後どのように表現していくのかを示唆しています。完全な電気駆動モデルであるBMW Vision iNEXTでは、BMW i3から機能的にもさらなる改良・進化を遂げた最新バージョンのキドニー・グリルを装備。その裏側にはカメラやセンサー、および運転支援テクノロジーのためのさまざまな先進技術が組み込まれています。目に触れなくとも状況に応じて作動するこのソリューションを、BMWでは「Shy Tech(シャイ・テック)」と呼んでいます。
ハイブリッド・スポーツカー、BMW Vision M NEXTには、強化ガラスによるクローズド・タイプのキドニー・グリルが採用されています。BMWのロゴをモチーフとしたパターンが全面に施され、イルミネーションやグラデーション・カラーと相まって、より立体的かつスタイリッシュな外観を際立たせています。