ミュンヘンのBMW Groupリサーチ&イノベーション・センター(FIZ)の一角で、まるでステージの上にいるかのように照明を浴びて佇むニューBMW 4シリーズ クーペ。ソンモ・リムはその後方にひざまずくと、立体的な形状のテールライトをなぞるように右手を動かしました。「この斜め後ろ45度は、気に入っているビュー・ポイントのひとつです。力強いリヤ・フェンダーや、ホイール・アーチのあいだで分割された水平なキャラクター・ラインが、新時代のクーペ・デザインを定義しています」。
一歩後ろに下がり、リムは解説を続けます。「真横から眺めると、キャラクター・ラインは弧を描くように見えますが、上から見るとその弧に反してカーブしています。この造形による光と影の交錯が、ボディ・サイドの引き締まった印象を生み出しています。さらにこのラインによってボディ全体が均衡のとれた上下2つのパートに分かたれることで、よりエレガントな軽快さを印象づけると同時に、佇んでいる時でさえ躍動感にあふれた外観をもたらすのです」。
リムが語るこの印象的なキャラクター・ラインは、2019年のフランクフルト・モーターショー(IAA)で初公開されたBMW Concept 4にも採用されています。このコンセプト・モデルは、クーペのデザイン史に新たな一章を加える非常にセンセーショナルな存在でした。もう既におわかりの通り、それは今回のニュー・モデルのプレビューでもありました。そして、そのニュー4シリーズ クーペ誕生のストーリーは、たった一枚のスケッチから始まったのです。
コンセプト・モデルは、映画の予告編のようなものです
「ニュー4シリーズ クーペでは、できるだけ少ないラインで印象に残るデザインを実現しようとしました」と、リムは当時を振り返ります。「量産モデルのデザインには製造上の要件が数多くつきまといます。その制約の中でいかにユニークかつ魅力的なクルマを作り出すかということは、常に私たちデザイナーの課題なのです」。
ニュー 4シリーズ クーペは、BMW Concept 4とは異なるラインやサーフェスで構成されています。しかし、全体的な外観の印象はとてもよく似ています。コンセプト・モデルと量産モデルのデザインの違いは、いったいどういった点にあるのでしょうか。
その問いに、リムはこのような例えを用いて答えました。「コンセプト・モデルは、表現豊かな映画の予告編、あるいはオートクチュールのファッション・ショーのようなものです。BMW Concept 4は、BMWデザインにおける本質をより明快に表現したものです。当然、量産モデルのようなさまざまな制約を受けることはありません。ですからナンバー・プレートやライト、センサー類をごくシンプルな形状として、純粋にフォルムだけを追求することができるのです。BMW Concept 4では、BMWクーペ特有のエレガントなスポーティさを強調することに注力しました。伸びやかなボンネット。ロング・ホイールベース。流れるようなルーフ・ライン。そしてショート・オーバーハング。これらの要素がBMWクーペらしい、エレガントでモダンなフォルムを作り上げています」。
デザインを始める前に、このモデルがルーム・ミラーにどう映るかを私は必ず想像します。一瞬で記憶に残るデザインを追い求めるためです
新しいモデルをデザインする際、リムは人々が初めてそのクルマと出逢う瞬間に想いを馳せます。「路上で、ショールームで、またはルーム・ミラー越しに。そのクルマを初めて目にした時に衝撃的な感動が走り、思わず感嘆の声を上げてしまうようなデザインでなければなりません。それでこそBMWなのです。私は常に、ステージ上でスポットライトを浴びている状態でコンセプト・モデルを描くようにしています。そしてそれは必ず、BMWとともにある未来を人々に想像させるものでなければなりません」。リムの語り口は、にわかに熱を帯びます。
同じ遺伝子をもつ、2つのクーペ
最終的なデザインに至るまでのプロセスで検討された数多のラインやディテールの造形、輪郭のすべてが実際の車両に採用されるわけではありません。しかしソンモ・リムは、それらの工程は決して無駄なものではないと断言します。「どのような挑戦も、自分に与えられたチャンスだと考えるようにしています。BMW Concept 4をデザインした際、幾度も試行錯誤を繰り返した中で生み出したフォルムが、ニュー 4シリーズ クーペのデザインにも反映されたことは非常に光栄なことです」。クラシックなデザインを新たな解釈で現代に甦らせた縦長のキドニー・グリルは、BMW Concept 4ではもちろんのこと、ニュー4シリーズ クーペにおいても、最もアイコニックなデザイン・エレメントとなっています。
過去と未来をつなぐ、縦長のキドニー・グリル
BMWをデザインするということは、100年を超えるブランドの歴史を、自らの手で繰り返し甦らせることでもあります。リムはCピラーとキャラクター・ラインを指でなぞりながらニューBMW 4シリーズ クーペの周りをゆっくりと歩き、フロントの先端に差し掛かるあたりで、私たちにこう語りました。「BMWのデザインには、確固たる歴史があります。ひと目でそれとわかる特徴、例えばこのキドニー・グリルも、こうしたデザイン・アイコンのひとつです。しかし、BMWのデザインは常に未来に向かって再解釈され、刷新を続けなければなりません。そこで、私たちはニュー4シリーズ クーペのデザインに敢えて過去の栄光を取り込むことで、未来へ向かうための大胆な一歩としたのです」。
ニュー4シリーズ クーペに備わった縦長のキドニー・グリルやフロント・バンパーには、伝説的な存在として愛される328や、往年の名車3.0 CSiといった、BMWクーペの遺伝子が確かに受け継がれているのです。
色彩が語る、特別なストーリー
クルマのデザインは、常にラインから始まります。ソンモ・リムにとって、ラインはその1本1本がエモーションを縁取るものなのです。そしてそのラインをいっそう引き立てるのが、然るべき選択がなされたカラーです。「色彩がクルマを形作るのです」とリムが語るように、豊かな表情をもたらすフォービドゥン・レッドのボディ・カラーは、ニュー4シリーズ クーペの巧みな面構成をより美しく際立たせています。光が当たる部分では華やかなレッドが輝きを放つ一方、影になる部分ではブラックのように見える深い艶を湛えるという情熱的なコントラストを生み出しています。リムはクレイ・モデルの段階から、光の効果がどのようにクルマのシルエットに影響するかを検証してきました。クレイ・モデルに銀箔を貼り付けて水を吹きかけることで、光がどのように反射し、どのように輪郭が浮き上がるかという実験を繰り返したのです。
「どの色彩にもそれぞれの個性があります。それと同じように、ニュー4シリーズ クーペのラインやエッジそれぞれが、独自の魅惑的な個性を表現しているのです」。そう語り終えると、リムは再びニュー4シリーズ クーペと向き合いました。ひとつひとつのラインが放つ個性を、余さず感じ取るかのように。