映画を印象付けるものは何でしょうか?優れたセット・デザイン、革新的な脚本、ビジュアル・コンセプト。いろいろな要素がありますが、最も重要なのは、物語に命を吹き込む素晴らしいサウンドトラックです。そして、クルマにも同じことが言えます。個性あふれるデザインやシャシーは、独自のドライビング体験をもたらす一方で、クルマが奏でるサウンドは感情と直結しています。例えば、愛好家や専門家は、クルマのエンジン音だけでBMWのモデル(➜ さらに読む:BMWモデル名を読み解く方法)を聞き分けることができます。では、音がしないとされる電気自動車でも同じ感動を得るには、どうすれば良いのでしょう?「どのBMW車にも個性があり、音を聞けばそれがわかります」とジマーは言います。それが顕著に表れる電動モデルでは、新しい方法で個性を表現しています。
BMW IconicSounds Electricにより、BMWの電気自動車では、これまでにない、感情を揺さぶる豊かなサウンドスケープを体感することができます。このサウンドを共同制作したのは、BMWグループ・クリエイティブ・サウンド・ディレクターのレンツォ・ヴィターレ、そしてグラミー賞やアカデミー賞を受賞した映画音楽の作曲家ハンス・ジマーです。そして今回、ジマーがミュンヘンを訪れ、完成した曲のプレミア演奏を電気自動車の中で体験しました(➜ さらに読む:電気自動車の充電のすべて)。
ジマーが幼少期から歩んできた音楽の旅に、新しい1ページが刻まれます。
子供の頃は、両親の帰宅が待ち遠しかったものです。私は、母のBMWの音と父のBMWの音を正確に聞き分けることができました。クルマが近づく音が聞こえると安心したのです。
40年近いキャリアを持ち、200本以上の映画やテレビのプロジェクトに携わってきた作曲家のジマーは、アカデミー賞に11回ノミネートされ、『グラディエーター』、『パイレーツ・オブ・カリビアン』、そして賞を受賞した『ライオン・キング』などの大ヒット作品のサウンドトラックを手がけてきました。また、『ブレードランナー 2049』や『デューン』のリメイク版など、未来の世界を描いた作品の音楽を作曲して、両作品でドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とタッグを組んでいます。また、『バットマン ビギンズ』や『ダークナイト』では、彼独自のサウンド・テクスチャーを開発し、ゴッサム・シティの雰囲気を音響で表現しました。ジマーが魅力を感じるのは、大都市の音です。音は、そこでの生活や建築物、自然に唯一無二の個性を与えます。ジマーにとって、音響やその音色は感情や記憶と密接に結びついています。幼い頃から、彼はそのような感覚を抱いていたそうです。
「子供の頃は、両親の帰宅が待ち遠しかったものです。私は、母のBMWの音と父のBMWの音を正確に聞き分けることができました。クルマが近づく音が聞こえると安心し、いつも通りであることに安らぎを感じました。ママとパパが帰ってきた!と。まるで、ベッドタイムを知らせる心地よいチャイムのようでした。椅子の上に立って窓の外を眺めては、その音が聞こえるのを待っていました」
ジマーの音に対する情熱は、このとき生まれました。また、彼は、幼い頃から将来を見据えることを親から教わっていました。「父は、1963年に亡くなる前は科学者でした。1962年、父は、BMWを改造して触媒コンバーターを取り付けていました。当時、化学者として地球を守らなければならないと考えていたのです。そのとき私は5歳でしたが、とても環境に配慮した生活を送っていました」数十年が経ち、今ではジマーは新しい電気自動車の波に乗ることに意欲的です。新たなクルマは、彼を魅了しました。「電気自動車では、特別な興奮が味わえます。特に、私たちが制作した音色や音響を聴くと、胸が踊ります。たった12音の音階のうちの3音で奏でられるBMWサウンドによって、クルマに個性をもたらすことができました」
BMW IconicSounds Electricは、BMWグループとグラミー賞やアカデミー賞を受賞した作曲家ハンス・ジマーのコラボレーションによって始まり、BMWの電気自動車のための革新的なサウンド・デザインとコンセプトの開発、そして最終的に、未来のサウンドを創造することを目的としています。このプロジェクトに参加する歓びについて、ジマーは次のように語ります。「産業革命以降初めて、都市の音を再設計し、再定義できるまたとないチャンスです。しかも、機械的な制限に縛られることはありません。感情を揺さぶる体験につながるものを創造できるのです」彼はこれまでに何度も、映画の音響制作で自動車や乗り物のサウンドを開発してきました。バットモービルの音などは、一見本物のようですが、実は一から作られています。実際に街を走るクルマに、どうやって感情を吹き込んだのでしょうか?「音楽家であることは、コードや音楽を覚えたり、楽器を演奏したりすることではありません」と彼は強調します。「音楽で重要なのは、音楽と遊び、戯れることです。音楽と戯れるには、遊び心を持たなくてはいけません。誰もが音楽家の遊び心を少し持てば、人生はもう少し楽しくなるでしょう。美しさと遊び心のあるサウンドをクルマに与えることを目指しました。雨の日の朝でも、ドライバーにくつろぎや安らぎを与え、通勤のときにほほ笑みをもたらしてくれるような音響を目指しました」
MyMode用に開発されたサウンドスケープは、トラディショナルなものもあれば、まったく新しく創られたものもあり、多様な音で構成されています。人の声やクラシックの楽器をベースに、機械的なサウンドやユニークな組み合わせでさまざまな音色を生み出しています。
BMWチームとの共同制作のなかで、ジマーとヴィターレは、BMW IconicSounds Electricが乗員にとって自分の感情を表現するための真っ白なキャンバスとなることを目指していました。「完全電気駆動のBMW車の走行音は、MyModeから選択することで、モデル別のサウンド・スペクトル内で変化させることができます。全部で5つのMyModeにより、ドライバーの好みに合わせて、室内での体験をより魅力的なものに変えます。それぞれのMyModeは、クルマの持つさまざまな特色を引き出しています。聴覚でそれを楽しむことができるのです」とヴィターレは説明します。BMW iXのデフォルト設定である「Personal」モード(BMW i4の初期設定は「Comfort」)では、BMW IconicSounds Electricが球形のサウンド・パターンと多くのトーン・コンポーネントを使用して、進歩的で独立した個性を表現する音響に仕上げています。「Personal」または「Comfort」モードを選択すると、室内で聴こえるサウンドは、歩行者警告システムによって外で鳴らされる走行音のベースにもなります。「Sport」モードは、「Personal」や「Comfort」の調和のとれたエレガントなサウンドとは対照的です。このモードでは、アクティブなドライビング体験がより印象的に際立ちます。明白な存在感を放つ音響で、極めてダイナミックな抑揚がつけられているので、ドライバーは、エンジンのパワー・デリバリーや現在の走行状況を、聴覚ではっきりと感じることができます。
一方、「Expressive」モードでは、BMWカーブド・ディスプレイに高いコントラストのネオン・カラーや抽象的なパターンが映し出され、サウンドを引き立てます。ベースの音色はバイオリンです。加速時には高音が重なり、速度が上がるにつれてハーモニーが数段階変化していきます。時速60 kmに達した時に最初の和音が聴こえ、時速120 kmに達すると2つ目の和音が聴こえてきます。速度が一定のときは音程が変わらず、音量は大幅に下げられ、運転に集中できるようになっています。「Relax」モードでは、サウンドトラックが醸し出す基本的な雰囲気が異なり、まったく異なる音響体験ができます。テーマは、ウェルビーイング、ハーモニー、リラクゼーションで、BMWカーブド・ディスプレイに海岸、川、湖をイメージしたグラフィックが映し出されるとともに、ソフトで繊細かつ調和のとれたサウンドが、穏やかでリラックスしたドライブへと誘います。「このサウンドスケープは、ドライバーの緊張感を和らげ、ストレスの緩和をサポートします」と、レンツォ・ヴィターレはコンセプトを説明します。音響が完全に抑制されるのは、「Efficient」モードのみです。また、他のMyModeでも、対応するiDriveメニューを使って走行音を無効にすることができます。
「真っ白なキャンバスは、やはり、驚きに満ちています」とジマーは語ります。「聴いているとき、運転しているときに何を感じるべきかは、レンツォや私が決めることではありません。私たちは、扉を開けて、ドライバーが聴覚の旅に出かける機会を提供したいと思っています。クルマの中のテクノロジーや体験に人間味を持たせようと試みています。今や、ある場所からから別の場所への旅路を、耳で感じることができます。そして、BMWのドライビング体験もまた、聴覚の冒険に変わるのです」
記事: Markus Löblein; 画像: BMW; 動画: BMW