それはまさに決定的瞬間でした。南アフリカのアーティスト、ニック・ブレイデンはこの日まで、数ヶ月に渡ってスタジオに篭り、自身のアイデアを具現化するための試行錯誤を幾度となく繰り返してきました。彼は今、3mmの薄いブロンズ製の葉を手に、トリムに施された精緻な切り欠きにはめ込もうとしています。作業台に身を乗り出し、慎重な手つきで、注意深く。そして次の瞬間、ブロンズ製の葉はピアノのように艶めくブラックの表面に、寸分の狂いもなくぴったりとはまったのです!しかし歓びもつかの間、彼はこの後同じ作業を31回繰り返すことになります。5つのトリムに、32枚の小さなブロンズの花と葉を組み込むのです。そしてため息を誘うほどに美しい仕上がりであっても、これらがアート・ギャラリーに展示されることはありません。なぜならこのアートピースは、世界でたった一台のBMW 7シリーズのためだけに作られたものだからです。 |
「私たちを衝き動かすのは、これまで誰も創らなかったものを創るということです」
「BMW Individualは、完璧なクラフトマンシップと至高のエクスクルーシビティを象徴するプログラムです」BMW M & BMW Individual上級顧客担当アドバイザーであるトーマス・ランゲネッガーはこう言います。「私たちを衝き動かすのは、これまで誰も創らなかったものを創るということです。BMW Individualが提供する独創的かつラグジュアリーな製品や高い技術により、それぞれのBMW車には強い個性が与えられます。」その結果、お客様のためにカスタマイズされた唯一無二の一台が生まれます。 BMWのクリエイティビティを最大限に活かし、あらゆる要望に応えるのが、BMW Individualなのです。
BMW Individual「エラーマン・ハウス」:32種の植物をフィーチャーした、動くアート・ギャラリー。
「エラーマン・ハウス」のBMW 7シリーズ・セダンがそのデザインに求めたのは、固有種が極めて多い南アフリカの植物多様性を反映することでした。これを具現化するため、依頼者のポール・ハリスはアーティストのニック・ブレイデンにコラボレーションの話を持ちかけます。ブレイデンは、エラーマン・ハウスのコレクションの一部にもなっている、植物をモチーフにした精巧なブロンズ彫刻で知られる南アフリカ人アーティストです。彼が思い付いたアイデアは、BMW 7シリーズ・セダンのインテリア・トリムに南アフリカの自生植物を型どったブロンズ片を埋め込み、クルマの化粧板をモダンなライブラリーに変えるというものでした。
「カスタマイズされた車のように、アートにもすべて個人的なストーリーが息づいています。これを表現するためには、どんな些細なディテールもおろそかにしてはなりません。私が伝えたいのは『ケープ植物区』の植生に関するストーリーです」とブレイデンは説明します。「西ケープ州の山岳から海岸部にかけて帯状に分布する“フィンボス”と呼ばれる植生地域があり、1,500以上の植物種が生育しています。これらの植物が私のインスピレーションの源となっていますが、今回のプロジェクトを通じて、次世代の人たちにもこの地域の植物や希少性について知ってもらえたらと思います」。
ブロンズの花や葉の制作にあたって、ブレイデンは他の彼の芸術作品と同じ工程を用いています。異なるのは、今回の方がより繊細さが求められるという点です。彼は石膏でそれぞれの植物の型を取り、鋳型を作ります。型の中にある植物を焼き払い、その結果として残った空間にブロンズを流し入れると、花や葉の形が出来上がります。
ブレイデンによると、最も難しいのは花や葉の形をした3次元の立体を、化粧板に組み込めるよう2次元の平面にする工程だといいます。自らのアイデアを形にするため何度も試行錯誤を繰り返しますがなかなかうまく行かず、彼はついに家具職人コリン・ロックの助けを借りることにします。そして二人はハンマーと研磨機を使い、植物を象ったブロンズ片が高級セダンのトリムにぴったりとはまるよう、慎重に成形作業を進めていきました。
「その後、ニックから成形品が届き、私たちはそれらに透明なニスを塗って仕上げたのです。」とトーマス・ランゲネッガーは振り返ります。「言葉だと簡単そうに聞こえますが、これらの手順や制作方法を考え、調整する作業は極めて複雑なものでした。しかし、私たちにとってこの種のチャレンジほど、ワクワクするものはありませんでした」。
完璧な職人技、至高のラグジュアリー、時代を超えたエレガンス、そして細部へのこだわり― BMW 7シリーズ「エラーマン・ハウス」は、すべてを極めた偉大なる作品です。
挑戦こそが、成長の糧となる。
BMW Individualが心を熱くするもの、それはチャレンジ以外の何物でもありません。「ある日、ニューヨーク在住の自動車コレクターの方が3台の新車、M5、M6 カブリオレ、M6 クーペを発注しました」とトーマス・ランゲネッガー。「それぞれの内装は、サヒール・オレンジの特注レザーでしつらえられることになっていましたが、さらにステアリング・ホイールの衝撃吸収材など安全関連の機能も追加され、それにより作業が非常に複雑になってしまうことがわかったのです。電話で事情を説明すると、そのお客様ははっきりとこう言われました。『BMW Individual を選んだのは、夢のクルマを実現するためなのだ』と。このたった一言に私たちは鼓舞され、何とかその難題をクリアすることが出来たのです」。
「すべてを可能にする」。それがBMW Individualのモットーです。あるお客様は、内装を隅々まですべてレザーで覆うことを望まれました。ツール・ボックスの蝶ボルトまでもです。最終的に、このお客様のBMW 7シリーズには約40平方メートルものレザーが使われました。またハワイの男性のお客様は、特別なリクエストについて話し合うため、ハワイからミュンヘンまでアカシア・コアの木を持ち込みました。「アカシア・コアはハワイにのみ自生する樹木で、おそらくその木材がクルマに使われたことはなかったと思われます」とランゲネッガーは言います。その時特注された BMW M6 カブリオレは今、ハワイの太陽の下を駆けぬけています。またBMW Individualにとって最も印象に残る経験のひとつが、BMW NIGHT SKYという宇宙をテーマにしたワンオフモデル(➜さらに読む:BMW NIGHT SKY – How a meteorite got into a car※リンク先は英語です。)です。 BMW Individualのエキスパートたちは何週間もの精緻な手仕事によって、レザー・シートとルーフ・ライニングは宇宙をイメージしたパターンを施し、アームレストには星座の輝きを、そしてセンター・コンソールには美しいモザイクをあしらいました。そのモザイクの一片一片に使われたのは、なんと45億年前の本物の隕石です!
ドイツからテーブル・マウンテンへ
ニック・ブレイデンとエラーマン・ハウスから14,500km以上も離れた場所で、手作業で仕上げられたピアノ・ブラックの化粧板が、 BMW 7シリーズと出逢いました。カスタマイズされたこの高級セダンは、ミュンヘン郊外にあるディンゴルフィングのBMW工場でコーチ・ラインが描かれ、Cピラーにはホテルのロゴもあしらわれました。「ニック・ブレイデンがインスピレーションを得たのは、テーブル・マウンテンの風雨によって削り取られた茶色の岩肌でした。私たちはこの色彩設計をBMW 7シリーズに採用したいと考え、様々な部分のエレメントにもこれを組み合わせました」とトーマス・ランゲネッガーは言います。「BMW Individualでは、特殊塗装用に100種類以上のペイント・オプションと20種類以上のレザーを用意しています。このモデルのボディ・カラーには、『ブラス(真鍮)』と呼ばれる伝統のある塗料が選択されました。インテリアでも、ロゴ刺繍が施されたシートをはじめ、同様の色調をまとったバイ・カラーのフル・レザー・メリノが採用されました。この空間では、あらゆるものが可能な限りレザーで覆われています」。
芸術作品が完成する時はいつも、 魔法のような何かを感じます。
ラグジュアリーとサステイナビリティの共存。
最初のアイデアが生まれてから約2年後、カスタムメイドのBMW 7シリーズはBMWの工場を出発し、長い旅を経て南アフリカへと向かいます「このクルマは、ラグジュアリーを最高の形で表現したものです。」そしてトーマス・ランゲネッガーはこう締めくくっています。「プラグイン・ハイブリッド・モデルであるBMW 745eは、サステイナブルなモビリティに植物をアートとして組み込むことで、故郷である『エラーマン・ハウス』との特別な繋がりを表現しました。共有されたビジョンが実現したことを、私たちは嬉しく思っています」。
現代的なラグジュアリーとは、個々の好みやスタイルに合わせて作られるものです。ホテル・オーナーのポール・ハリスは、彼のゲスト同様、美学とさりげない洗練を重んじています。しかし、彼が言うように、真のラグジュアリーとはユニークな体験ができることです。「特別な瞬間を味わえることは、何にも代えがたい特権であると私は理解しています。そして、完璧にカスタマイズされたBMW 7シリーズ セダンが目の前にある今こそが、この上なく素晴らしい瞬間です」。ハリスは感無量の面持ちで、ニック・ブレイデンとともにあらゆる角度で驚きながら車を眺めています。アーティストのニック・ブレイデンも、誇らしくこう語ります。「芸術作品が完成する時はいつも、魔法のような何かを感じます。私は今、この高級セダンとの個人的な絆を感じています。私の作品が収められた、とっておきの“移動するギャラリー”です。」
まさに珠玉のこの一台も「エラーマン・ハウス」のアート・コレクションの稀少な作品のひとつです。
BMW Individualにはどのようなオプション装備やアクセサリーがあり、車両のカスタマイズにおいては個人のリクエストにどこまで応えることができるのでしょう。BMW M & BMW Individual上級顧客担当アドバイザーであるトーマス・ランゲネッガーは、次のように答えています。
BMW Individualとは何ですか?
BMW Individualは、独自の製品ラインアップと製造によって構成されるプログラムです。お客様は幅広い選択肢から、お好みの上質なメリノ・レザーはもちろん、例えば日本の木材セン(針桐)を使ったインテリア・トリムなども探すことができます。カスタマイズのイメージやご希望をお伝えいただければ、私たちのチームがその想いをパーフェクトに満たす唯一無二の一台へと仕上げます。
カスタマイズにはどのような可能性がありますか?
お客様はBMWコンフィギュレーターを使い、BMW Individualが提供する多彩なボディ・カラー、レザーとコントラスト・ステッチなどから自由に組み合わせ、夢のクルマに近いイメージを描くことができます。これに加え、ボディ・サイドのコーチ・ライン、インテリアのレザー・カバリング、装飾ステッチ、ロゴを使った加飾、Bピラー、ドア・シル、インテリア・トリムなど、手作業によるさまざまな仕上げを施すことが可能です。BMW Individualはそれがどんなに突拍子もないアイデアであっても、あらゆるリクエストに応え、すべてにおいて満足のいく完成度を追求します。そのために車両のディテールにこだわるのは言うまでもなく、当社の最優先事項である安全に関してもすべての法的要件に適合するよう、一人ひとりのお客様と時には数ヶ月、場合によっては1年以上を費やしてお話しすることがあります。
最大の課題は何ですか?
最も重要なのは、品質と安全性のチェックです。カスタムメイドの車両は設計から開発はもちろん、販売セクションと内装、車体製造、レーザー加工といった専門分野を担当するチーム間での密接かつ正確なコーディネーションが必要となります。
個人的に、BMW Individualのどのモデルが最も印象に残っていますか?
一つは、ROBBE & BERKING社からインスピレーションを得たBMW Individual 760Li Sterlingです。この有名な銀食器メーカーとのコラボレーションにより、BMW Individualのチームは、精巧なマルテレ技法を用いて加工された13kg以上の本物のシルバーを装着しました。このモデルでは、キドニー・グリルさえも純銀で製作されました。また、最も印象に残るプロジェクトといえば、間違いなくBMW NIGHT SKYが挙げられます。この唯一無二の一台のために、45億年前の重量約25kgの隕石から、0.3mm未満の薄片が切り出されました。BMW Individualのチームは、センター・コンソールの装飾パネル、シフトレバー、スタート/ストップ・ボタンなどに、これらの繊細な隕石の薄片をモザイクとして取り付けたのです。
あなたの仕事において、最良の瞬間はいつですか?
納車の時です。お客様がご自身の夢を手にした瞬間を見るのは、最高の気分です。なぜなら、お客様がその一台を誇りに思い、特別なものと感じていただくことが、私たちのインスピレーションの源だからです。
写真&映像:BMW、記事:マルクス・ローブレン