メインコンテンツへスキップ
 

 

記事を読むのに必要な時間:約5分

i5とiX1を連ねて、向かった先は日本のほぼ中心に位置する滋賀県。豊かな自然が広がる琵琶湖のほとりをめぐりながら、走りに走った1000㎞。1泊2日の小旅行で見えてきたのは、2台のBEVがロングツアラーとして優れた資質を備えているという事実だった。

2024/9/25

※このページは三栄社発行の『モーターファン別冊 ニューモデル速報 Vol.89 BMW電気自動車のすべて』より一部改変の上、転載したものです。
TEXT 世良耕太 (Sera Kota)/  PHOTO 神村 聖 (Kamimura Satoshi)

BEVならではの“駆けぬける歓び”がある

春~秋はキャンプ、冬はスキーも楽しめるマキノ高原へと続くアクセスロードの途中には、約2.4㎞にわたって約500本のメタセコイアが植えられた並木道が伸びている。植物の息吹が色濃く感じられる深緑は清々しく、心の栄養となる。

BEVならではの“駆けぬける歓び”がある

日本百名山でもある伊吹山の9合目まで一気に駆け上がることができる伊吹山ドライブウェイ、その頂上の手前で小休止。滋賀県と岐阜県をまたぐように連なる全長17㎞のタイトなワインディングロードは走り甲斐があり、“駆けぬける歓び”を存分に体感できた。

1泊2日のロングツアーでBEVへの見方が一変した

BMW i5とiX1を乗り換えながら行なったロングツアーは、BEVに対する見方を180度変える経験になった。正直に言うと、i5&iX1でロングツアーを経験するまで、(沖縄での経験に端を発し)BEVは長距離ドライブに不向きだと思っていた。

伏線を張り巡らせることなく結論から先に伝えるが、いくつかの条件が揃えば、BEVで行なうロングツアーはまったくのストレスフリーである。ストレスがないばかりか、旅が一段と快適で楽しくなる。i5とiX1はそのことを、1泊2日の付き合いで教えてくれた。10年ひと昔とはよく言ったもので、セダンタイプのi5からは、BEVの特徴だったはずのありがたくない特徴を指摘することはできない。内燃エンジン(ガソリンorディーゼル)搭載モデルとの明確な違いは、トランクリッドのバッジと言っていいくらいだ。BEVはフロアにバッテリーを搭載する都合上、フロアが高くなり、ゆえに腰高なフォルムになるケースが多かった。BEVにSUVタイプが多いのは、バッテリー搭載による腰高感を感じさせず済むからだ(個人の感想を含む)。

そう考えると、i5のフォルムは見事と言うほかない。しかも、83.9kWhものバッテリーを積んでいることを考えるとなおさらだ。約10年前の電気自動車の3.5倍の容量であり、WLTCモードの一充電走行距離は580㎞である。東京・有明でi5を受け取ったときのバッテリー残量は87%で、走行可能距離は444㎞だった。ロングツアーに出掛けるにあたっての安心感が違う。

i5には2タイプあり、フロントとリヤにモーターを搭載するパワフルなM60xDriveと、最高出力250kW(340㎰)、最大トルク400Nmのモーターをリヤに搭載するeDrive40がある。ロングツアーの相棒は後者で、スポーティな仕立てのM Sportだ。

高出力の急速充電器で電池残量を一気に回復

高出力の急速充電器で電池残量を一気に回復

今回のロングツアーの道中では、往路・復路ともに新東名高速道路の浜松サービスエリアで急速充電を行なった。i5は205kWまでの急速充電に対応しており、150kWの急速充電器を利用することで、短時間でバッテリー残量を大幅に回復させることができた。ちなみに写真の150kW急速充電器は2台同時に充電すると出力が最大90kWとなるため、iX1は別の90kW急速充電器を利用している。

高出力の急速充電器で電池残量を一気に回復

ナビで目的地を設定すると、ルートの途中に存在するおすすめの充電施設を提案してくれる。こうしたインフォテインメント機能も、快適なロングツアーを楽しむのに有用だ。

東名高速道路・中井PAでiX1と合流(残量68%/走行可能距離374㎞)し、そこから170㎞先の浜松SAで1回目の充電を行なうプランである。御殿場からは制限速度120㎞/hの新東名高速道路を選択。アダプティブクルーズコントロール(ACC)をオンにして走った。エンジンを搭載するクルマは当然のことながら、エンジン回転の上昇に伴ってエンジン音が高まっていく。車速が上昇するにつれてロードノイズや風切り音が支配的になるが、エンジン音を含んでいることに変わりはなく、低速でも高速でもノイズは付きものだ。

BEVはインバーターのスイッチングノイズなど、加減速に伴って高周波のノイズを発するが、i5は電動コンポーネントに起因するノイズがうまく抑えられており(iX1も同様だ)、音圧による鼓膜への連続的な刺激が弱いため、長時間移動時のストレスが軽くて済む。ACC任せの中井PAから浜松SAまでの170㎞は、実質的にオーディオのリスニングルームと化していた。BEVに対する認識をあらためる一助になったのは、出力150kWの急速充電器だ。新東名・浜松SAには上りにも下りにも1基(2口)設置されている。高出力の急速充電器をルート上に織り込んでおくかそうでないかで、ロングツアーの快適度が大きく左右される。

高出力の急速充電器のポテンシャルをフルに発揮させるには、車両側も高い出力に対応している必要があるが、その点、i5、iX1とも抜かりはない。浜松SAでは往路、復路ともにi5だけが150kWの急速充電器で充電したが、往路では30分間の充電で残量が32%から80%に回復し、メーター表示で237㎞分の充電ができた。復路は11%だった残量が73%まで回復し、386㎞分を充電することができた。詳細はページ下部の表を参照していただくとして、東京から約500㎞離れた(ダイレクトに向かわず、途中さんざん寄り道している)琵琶湖畔に向かうのに、途中1回の充電で済んでいる。充電器のディスプレイを確認したところ、146kWの出力が出ていることを示していた。充電状態を示すプログレスバーがみるみる伸びていくのが新鮮で楽しく、休憩するのを忘れるほどだった(ウソです。しっかりコーヒーとケーキをいただきました)。

浜松SAでiX1に乗り換えた。xDrive30で、フロントとリヤにそれぞれ最高出力140kW(190㎰)のモーターを搭載。システム最高出力は200kW(272㎰)、最大トルクは494Nmである。ハザードランプスイッチの位置が違うなど操作系に多少の違いはあるが、運転席に座った際に視界に入る情報や操作方法などはi5と基本的に共通しており、静かでしなやかな乗り味も含めて相似といえる。ライフスタイルや好みで選べばいい。どちらもBMWのBEVであることに変わりはなく、上質だ。当然だが、iX1はアイポイントが高く、同じ道を走っていても見晴らしがいいし、乗り降りはしやすい。

一方、i5は落ち着いた身のこなしが身上。高速走行時のスタビリティは抜群で、今回のようなロングツアーでは真価をいかんなく発揮してくれた。細街路に踏む込むケースが多い観光地でもてあますかというとそんなことはなく、見切りがいいおかげで気を使わずに済む。試乗車はインテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(後輪操舵機構)装着車だったこともあり、システムなしに比べて最小回転半径が0.4m小さい5.3mとなる。逆相側の切れ角は最大2.5度と、競合に比べて控え目な数値だが、効果は十分だし、制御が巧みなおかげで違和感は皆無。完全に黒子に徹している。

回生ブレーキの強弱はi5、iX1ともセンターディスプレイをタッチしてメニューを呼び出し、切り換える。弱/中/強/アダプティブの4種類から選択可能。先行車がいるケースの多い観光地では、アダプティブが便利だ。カメラなどのセンサーで得た情報から車間距離を監視しており、先行車に近づくとシステムが自動で車両を減速させ、適切な車間距離を保ってくれる。

パドルは付いていないが、シフトセレクターをDからBにすると回生ブレーキが強くなり、減速が強くなる。Bレンジの場合は最終的に完全停止する。Dレンジの場合は最終的にはクリープに移行し、完全停止はしない。つき合っていくうちに自分なりの使い方が見つかっていくだろうが、筆者の場合、回生ブレーキ「中」との相性が良く、Bレンジはほとんど使わなかった。つまり、何もいじらないど真ん中の設定が一番合っていたわけで、BMWは勘どころを押さえたセッティングをしてくれているということになる。

余裕ある航続距離と優れた電費性能が快適な旅を約束

それが宿選択の幅を狭めることになるかもしれないが、ロングツアーを計画する際はできれば、普通充電器を備えたホテル/旅館を予約しておいた方がいい。ただし、宿泊施設に充電器が備わっていない場合は、道中で急速充電の回数を1回増やせばいいだけの話だ。今回は約1000㎞走って急速充電2回、普通充電1回で済んでいる(約10年前とはえらい違いだ)。それが急速充電3回になったところでストレスが倍増するわけではない、というのが、今回の1泊2日の旅での実感だ。

1日目は琵琶湖の東岸側に位置する彦根や近江八幡を巡った。

街の静寂を保ちながら名所旧跡を巡る

街の静寂を保ちながら名所旧跡を巡る

豊臣秀吉の甥、秀次が築いた近江八幡。近江商人発祥の地でもあり、琵琶湖とつながる八幡堀が経済・交通の要衝となって城下町の繁栄に貢献した。堀の両側には白壁の土蔵など昔ながらの建物が並び、時代劇のロケ地としても知られる。

街の静寂を保ちながら名所旧跡を巡る

近江八幡の観光案内所として旅行者を迎える白雲閣。西洋建築様式に日本の伝統技術を取り入れ、1877年に学校として建築された。

2日目は長浜を出発し、琵琶湖の北側を反時計回りに巡って湖畔を走り、高島市でメタセコイアの並木を抜け、南に下って琵琶湖の中央西岸に位置する白鬚神社で反転。今度は時計回りで東岸まで戻り、北陸自動車道路〜名神高速道路を利用して関ヶ原ICで電池残量等をチェックした。

この時点でホテルを出てから232㎞走っており、iX1の電池残量は42kWh、走行可能距離は201㎞だった。ずいぶん走った実感はあったが、このまま近くにある全長17㎞の伊吹山ドライブウェイ(岐阜県)に向かい、標高1260mの山頂駐車場に向かうことにした。ひと昔前のBEVなら、念のため注ぎ足し充電しておこうと提案するところだったが、前日からの付き合いで、「42%も残っているなら大丈夫だろう」と楽観視できる程度にはiX1に馴染んでいた。標高1260mまで一気に駆け上がったばかりか、下ってそのまま浜松SA(静岡県)まで走ってしまったのだから、当節のBEVの、というかiX1とi5の性能ときたらオソロシヤである。

伊吹山ドライブウェイを走って、山登りこそBEVだと再認識した。エンジン車ならうなりを上げるところだが、iX1は平地と変わらない澄まし顔で急勾配を駆け上がっていく。山道の常で曲率の小さなコーナーが連続するが、応答が良く、瞬時に大きなトルクを発生するモーターのおかげで、スイスイとコーナーをクリアしていく。思いどおり、リズミカルにラインをトレースできるのでストレスがなく、むしろ楽しい。BMWのBEVにはBEVの“駆けぬける歓び”があるのを実感する。

日本で一番大きな湖となる琵琶湖をドライブ

面積は約670㎢、湖岸の周長は約235㎞と、日本で一番大きな湖となる琵琶湖。400万年もの歴史をもち、世界でも数少ない貴重な古代湖でもある。滋賀県民の方は、琵琶湖のことを“うみ”と呼ぶこともあるそうだが、湖畔から眺める景色はまさに一碧万頃だ。

琵琶湖の北西に位置する白髭神社の湖中大鳥居

琵琶湖の北西に位置する白髭神社の湖中大鳥居は、パワースポットとしても有名。御祭神の猿田彦命が白い髭を蓄えていたことが社名の由来とか。道路を挟んだ境内に設けられた展望台から鳥居を眺められる。

正直、出掛ける前はBEVでのロングツアーにいささか懐疑的だったが、1泊2日1000㎞の旅を終えて疑念は晴れた。BMW i5とiX1はロングツアラーとしての資質を備えている。間違いなく。

1000㎞走破で実感したロングツアラーの資質

1000㎞走破で実感したロングツアラーの資質
1000㎞走破で実感したロングツアラーの資質

○ドライバーA:体重65㎏ ◇ドライバーB:体重80㎏ △カメラマン:体重60㎏ カメラ機材(約20㎏)は2台に分散して積載。エアコン温度は22~24度に設定。

東名高速道路の中井パーキングエリアを起点として、一路、西へ。御殿場ジャンクションから新東名高速道路に入り、浜松サービスエリアで充電を行なった。その後、名神高速道路の関ヶ原インターチェンジで一般道に降り、醒井~彦根城~近江八幡で撮影をこなした後に長浜のホテルで宿泊。翌日は早朝からメタセコイア並木と白髭神社を探訪し、関ヶ原インターチェンジ近くの伊吹山ドライブウェイを走破してから帰路へ。名神高速道路~東名高速道路~三ヶ日ジャンクション~浜松いなさジャンクションを経て新東名高速道路の浜松サービスエリアでたっぷりと充電し、東名高速道路の中井パーキングエリアを目指した。総走行距離は997㎞。

現在、ウェブサイトの一部機能がご利用いただけません。
クッキー管理ツールが一時的にオフラインになっているため、ウェブサイトの一部機能がご利用いただけない場合がございます。